研究実績の概要 |
生命科学はゲノム科学・ポストゲノム科学の時代を迎えて,知識の量が爆発的に増えただけではなく,その内容も,エピジェネティクスや非コードRNAなど,これまでの生命科学の知識にはほとんど含まれていなかったものが前面に出てきており,これらの理解が人間存在の特殊性(があるとすれば)やさらに広く生命が示す創発性の理解にも不可欠になってきた。こうした状況に基づいて,新たな生命の理解に向けた問題の整理と研究の方向性を探るため,本年度は以下の2つの研究を行った。 1.最新の生命科学の研究情報に基づく生命基礎論の新たな問題点の整理:米国National Center for Biotechnology Information (NCBI)のPubMedを利用し,生命科学関係の主要雑誌として,Nature, Science, Cell, Current Biologyなど32誌から,2000年-2010年のすべての基本論文データをXML形式で取得した。BaseXというXML検索ソフトウェアを利用し,データ検索ができるデータベースを構築した。これを用いて,"function", "mechanism"など9つの主要概念の生起頻度を求めた。その結果,雑誌ごとに語彙の使用頻度に大きな差があることがわかり,生命科学の分野により,背景にある生命理解が異なる可能性が示唆された。 2.生物学史上の主要な生命概念の検索:ジャン・ドゥーシュの遺伝学史,ミシェル・モランジュの生物学史という最新の文献をたどりながら,主要概念の変遷についてまとめた。さらに,パスツール研究所にあるジャック・モノーの未公開原稿を調査し,分子生物学黎明期における生命概念,特に偶然・必然概念,適応・進化の生化学的説明などを今日的見地から検討した。
|