土井ヶ浜遺跡1号人骨(通称「鵜を抱く女」)と共伴した鳥骨をコラーゲンタンパク分析により同定するために、現生の日本産鳥類を中心にコラーゲンタンパクのトリプシン切断断片のピークリストを作成するとともに、「鵜を抱く女」と共伴した鳥骨片のうち形態的特徴のある大型破片と接合する断片のコラーゲンタンパク分析を実施した。今年度は以下の実験をおこなった。 1.「鵜を抱く女」と共伴した形態的特徴のある大型破片と接合する鳥骨片3点について,コラーゲンタンパク分析を実施した。その結果,すべての資料でトリプシン切断断片のピークリストが得られた。3点のピークリストは高い類似性を示し、同一種に由来する可能性が高いことが示唆された。 2.骨の形態学的解析から含まれる可能性が考えられたフクロウ科、タカ科、カモメ科およびウ科のピークリストと、「鵜を抱く女」と共伴した鳥骨から抽出したコラーゲンのピークリストを比較した結果、3つの鳥骨片のピークリストでは、フクロウ科に特異的な2つのピークが認められた。一方、ウ科、カモメ科、タカ科に特異的なピークはいずれも認められなかった。また、他の分類群では確認されるもののフクロウ科にはないピークも、一貫して確認されなかった。これらのことから、「鵜を抱く女」と共伴した形態的特徴のある大きな骨と接合する3つの鳥骨片はフクロウ科に由来すると考えられた。 3.これまでの分析で、日本産鳥類を中心に48科168種について良好なトリプシン切断断片のピークリストが得られた。得られたピークには特定の科あるいは特定の複数の科に特徴的に出現するものが含まれていた。これらのことから、骨中のコラーゲンタンパクのアミノ酸配列は鳥綱の科内あるいはより低次の分類群内においても変異があり、これらのピークを利用して科あるいはより低次の分類群を単位とした遺跡資料の同定に利用できると考えられた。
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