研究課題/領域番号 |
15K12441
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研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
塚田 全彦 東京藝術大学, 大学院美術研究科, 准教授 (60265204)
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研究分担者 |
桐野 文良 東京藝術大学, 大学院美術研究科, 教授 (10334484)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 保存科学 / 文化財科学 / 材料試験 / 加速腐食試験 / 金属薄膜センサー |
研究実績の概要 |
博物館などにおいて、文化財の展示ケース、収蔵容器に用いる材料から放散される化学物質が文化財に悪影響を及ぼす可能性があるため、その選択は非常に重要である。影響が極力少ない材料を選択するために金属箔を用いた加速腐食試験が従来行われているが、本研究では金属薄膜で製作したセンサーを用い、また従来の試験条件を再検討することで、より信頼性の高い試験方法の確立を目指す。本年度は以下の課題について検討した。1.試験容器の気密性保持方法の検討および従来の試験条件での試験容器内の温湿度と結露頻度の計測、2.グリセリン水溶液を用いた試験容器内の湿度制御の検討、3.銅および銀薄膜センサーを用いた予備実験。 1.ではセンサーのケーブルを試験容器蓋のシリコンセプタムに通す方法について気密性保持の観点から検討した。セプタムに切れ込みを入れ複数本のケーブルを通すよりケーブル一本づつを注射針であけた穴に通す方が気密性を保持できること、またいずれの場合もケーブル通過部を容器外側からシリコン樹脂でコーキングすることが有効であることが確認された。 また1.および2.について試験容器内の温湿度および結露頻度を計測するために小型デジタル温湿度センサーおよび結露センサーで計測を行った。実験初期の計測データから、従来の試験条件では加熱直後の早い時点からほぼ常に相対湿度100%の状態を維持して結露頻度も高いのに対し、グリセリン水溶液を用いることで80-90%程度の高相対湿度を維持し結露の発生も抑えられると期待でき、現在実験を継続している。 3.では銅および銀を用いた薄膜センサー素子を用いて予備実験に着手した。素子へのケーブル結線に銀含有ペーストを用いアルキド樹脂製絶縁剤でコーティングしたが、高温高湿度の試験条件でこれらが流れて機能しなくなることが判明した。そのため現在、他のコート剤の検討を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
小型デジタル温湿度センサーを用いた計測には申請時にはデータロガーも含めた市販の計測システムの使用を想定していたが、研究経費が申請額より大幅に減額されたため、センサー素子と安価なワンボードマイコンを用いて計測システムを自作した。デジタルセンサーの使用経験がこれまでなかったため、システム構築に時間を要した。 また研究協力者がこれまでに試作した銅および銀による薄膜センサー素子による予備実験で、結線および絶縁処理に用いた材料が試験条件に適切でないことが判明したため、これらの材料について再検討が必要となった。 また鉛による薄膜センサーの試作に協力してもらうことを予定していた施設で、安全性の問題から鉛の使用が不可能であることが判明した。そのため、他の施設、研究機関での可能性を調査する必要が生じた。現在、民間の業者に製膜の代行を委託することも検討・準備している。 以上のように予期していなかったことにより、本年度行う予定であった事項の内、未着手の項目がいくつかあり、研究計画に遅延が生じているといわざるを得ない。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に判明したいくつかの問題点については解決の目途が得られつつあるため、今後はすでに着手した実験の継続と、未着手項目の実施に注力する。特にグリセリン水溶液を用いた場合の従来の試験法との結果の互換性の検討、および金属薄膜センサーを用いた実験の実施に早急に取り組む。また申請当初、二年度目に予定していた金属薄膜センサーの複数回利用の可否、金属薄膜センサーを用いた試験と従来の試験の互換性の検討、および本手法の妥当性の評価についての検討も並行して行う。また申請時には薄膜の最適膜厚の検討を銅、銀、および鉛について検討する予定であったが、鉛センサーについては製作にかなり制限がある状況であり実施が困難な可能性が高い。そのため、銅および銀について可能な限り取り組む予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
前述のように鉛薄膜センサーの試作に協力してもらうことを予定していた施設の使用が不可能であることが判明したため、試作に必要な物品の購入、および施設の借用に支出することを予定していた経費が本年度中に支出できず、次年度使用額として生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
鉛薄膜センサーの試作を民間業者に委託した場合の見積もり額は、この次年度使用額を上回るため、翌年度分として請求した助成金のうちの鉛薄膜センサー製作用の物品購入を予定していた分の一部をこれと合算して委託に必要な経費に充てることを検討している。
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