文化財の展示ケース、収蔵容器に用いる材料から放散される化学物質が文化財に悪影響を及ぼす可能性があるため、影響が極力少ない材料を選択するために金属箔を用いた加速腐食試験が従来行われている。本研究では金属薄膜で製作したセンサーを用い、また従来の試験条件を再検討することで、より信頼性の高い試験方法の確立を目指す。本年度は以下の課題について検討した。1.グリセリン水溶液を用いた試験容器内の湿度制御および従来の試験方法との互換性の検討、2.金属薄膜センサーを用いた加速腐食試験の試行と金属箔による従来法との比較。 1.についてはグリセリン水溶液を用いた場合の、従来の試験法との結果の互換性について、前年度に続き試験数を増やしてさらに検討する目的で追加実験を行った。今年度行った実験ではグリセリン水溶液は前年度と同じ濃度で行ったが、試験容器内の相対湿度は前年度の実験時とは最大7%程度の差が生じた。試験容器内の空気を撹拌することは困難であるのに加え、グリセリン水溶液の濃度に不均一性が生じる可能性も一因と推測され、厳密な相対湿度制御は難しいが、従来法の試験結果と互換性を保ち、結露が生じない高相対湿度環境での試験は可能と考えられる。 2.については、従来の試験条件と、濃度の異なるグリセリン水溶液2種により、相対湿度を100%、90%、80%程度に設定し、数種の材料について金属薄膜センサーを用いた加速腐食試験を行い、金属箔を用いる従来法の結果と比較した。相対湿度100%ではどの金属でも金属箔が腐食した場合は薄膜センサーの電気抵抗の上昇が概ね認められたのに対し、相対湿度が100%以下の場合に薄膜センサーの電気抵抗が上昇しない場合もあった。また薄膜センサーの電気抵抗が上昇する場合にノイズ状に段階的に上昇していく場合も認められた。金属薄膜センサーの性能評価のためにはさらに試験数を増やして検討する必要がある。
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