三角縁神獣鏡のような出土青銅鏡は、古代における文化、交易、技術などを知るための多くの情報を持つ。そのため、成分分析は有効な手段のひとつとされるが、通常、破壊を伴う分析方法は許されない。表面が厚い腐食層に覆われている出土青銅鏡は蛍光X線分析による定量評価も困難である。本研究では、青銅鏡の金属組織が構成元素及び含有量と密接な関わりを持つことに着目し、金属組織から成分分析を試みた。 初年度(平成27年度)においては、奈良県黒塚古墳出土三角縁神獣鏡33面ならびに画文帯神獣鏡1面を対象とした。部分的に焦点の合った複数の組織画像を一平面上に合成(3Dタイリング)し、主体となる金属相を抽出した。34面のうち2面は金属組織を得ることは難しかったが残り32面はα相のデンドライトと共析相、鉛相が確認できた。それぞれの相面積比から主要構成元素(銅、錫、鉛)の成分比を算出した。 平成28年度は、分析の高精度化を目的として鋳造試験片Cu-xSn-5Pb (x=5~28) を試作し、素材のCu、Sn、Pb濃度と微細組織にみられるα相、α+δ共析相、鉛相における成分を測定した。これらのデータは組織画像から成分値を見積もる際において重要なこそデータとなる。また、対象は泉屋博古館所蔵の中国青銅鏡とし、金属組織を取得した。さらに、表面をごくわずかに研磨することにより、金属組織がより鮮明に取得できることを見出した。この方法は、鏡だけではなく、錫を15%以上含む高錫青銅に有効であり、鐘や鏃などにも適用できることを確認した。
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