研究課題/領域番号 |
15K12443
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
小田 寛貴 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 助教 (30293690)
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研究分担者 |
山田 哲也 公益財団法人元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (80261212)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 青銅器 / 緑青 / 放射性炭素年代測定法 |
研究実績の概要 |
青銅器に発生する緑青の 14C年代測定では,炭素を抽出するため,加熱分解法が採られている.しかし,不純物の影響は評価されておらず,正確な14C年代が得られていない可能性がある.そこで本研究では,加熱分解法における不純物の影響評価を第一の目的,これに代わる新たな緑青調製法の開発を第二の目的とした.さらに,年代既知の青銅器緑青の14C年代測定を行うことで,青銅器に対する14C年代測定法の有効性を実証することを第三の目的とした. 本年度は,緑青からの炭素抽出法として従来採用されていた加熱分解法に代わる新たな手法として,リン酸分解法の開発を行った.加熱分解法は,緑青を真空中において250~300℃で加熱することで,CO2を放出させる方法である.しかし,土壌等の不純物由来のCO2も放出され,正確な14C年代を得ることができない資料があることが判明した.そこで,常温の真空中で,緑青をリン酸と反応させCO2を発生させるリン酸分解法を開発した.まず,それに要する反応容器として石英製の二又のガラス管を考案した.この二又ガラス管の一方の足にリン酸を,もう一方に緑青を入れた.これを,真空にした後,ガスバーナーで封じ切り,リン酸を緑青試料に注ぎ込み,CO2を発生させることに成功した. また,本年度は,加熱分解法により14C年代測定を行った.代表的な例が,弥生時代の青銅鏡5面である.しかし,内2面は十分なCO2が得られず,3面について測定を行った.その結果,いずれも紀元前1世紀から紀元後1世紀の年代が得られ,考古学的な年代との一致する結果を得た.三星堆人頭俑についても同様に年代測定を行い,紀元前1世紀の値を得た.しかし,兵馬俑の将軍俑については,約3000年前という値が得られ,考古学的な年代よりも古い結果となった.これは,土壌由来の不純物の影響であると考えられ,加熱分解法の限界を示す例となった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度までに実施予定であった「加熱分解法の条件の再検討」,「加熱分解法における不純物の影響評価」および「新たな緑青の調製法(リン酸分解法)の開発」は完了している.また,次年度から遂行する「青銅器に対する14C年代測定法の有効性の実証」の準備を開始するとともに一部を実行した. 「加熱分解法の条件の再検討」については,合成緑青,銅鐸の緑青,孔雀石について比較実験を行い,従来の条件では,青銅器の緑青から十分な収率のCO2を得ることができないことを実証し,新たに「緑青を真空封入し,300℃で2時間加熱することでCO2を抽出する」という具体的な化学処理法を開発した. 「加熱分解法における不純物の影響評価」では,銅鐸の緑青と土壌の混合物について,加熱温度を変化させ,生成したCO2の14C年代測定を行った.その結果,土壌由来の炭素の影響を受けて,正確な14C年代を得ることができないことを実証した.すなわち,加熱分解法に代わる新たな緑青の調製法が必要であることを提示した. この研究成果を受け,常温の真空中で,緑青をリン酸と反応させCO2を発生させる「新たな緑青の調製法(リン酸分解法)の開発」を行った.これに要する反応容器として石英製の二又のガラス管を作製した.一方の足にリン酸,もう一方に緑青を入れ,これを真空にした後ガスバーナーで封じ切り,リン酸を緑青試料に注ぎ込み,CO2を発生させることに成功した. さらに,次年度から遂行する「青銅器に対する14C年代測定法の有効性の実証」の準備として,歴史学的に年代の判明している青銅器の収集を行った.その一方で,弥生時代の青銅鏡等,一部の年代既知資料を用いて14C年代測定に着手した. 本年度までに遂行予定の課題が完了している点,さらに次年度遂行予定の課題にも着手している点を考慮すると,区分(1)と評価するのが適切と考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度にあたるH29年度は,「青銅器に対する14C年代測定法の有効性の実証」を推進する. H27年度は加熱分解法の条件の再検討を,H28年度はそれに代わる新たな調製法としてリン酸分解法を開発してきた.その結果,自然科学の面からは,原理的に青銅器の14C年代測定が可能であることを実証した.しかしながら,実際の青銅器の年代を判定する上で,14C年代測定法が有効な手法となることを実証する必要がある. W.F.Libbyは,1949年に,資料に含まれる14Cの濃度を測定することで,その資料の年代を決定することができるとして,14C年代測定法を確立させた.その際にとった方法は,考古学的に年代の判明している樹木等の資料について,実際に14C濃度を測定し,その値が,年代の古いものほど低くなっていることを実証するというものであった.そこで,本研究では,このLibbyの採った手法を青銅器に適用することにした. すなわち,考古学ないしは歴史学の面から年代の判明している青銅器から緑青を採取し,その14C年代測定を実施する.得られた14C年代を較正暦年代に換算し,考古学・歴史学的年代と比較することで,青銅器に対する14C年代測定法の有効性を実証する.昨年度までの研究成果を学会および研究集会において発表してきたことによって,多くの資料の提供を受けることが可能となった.資料は,日本国内からだけではなく,インド・デカンカレッジ,ロシア科学アカデミー極東支部極東民族歴史考古民俗学研究所の協力により海外からも提供を受ける予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
H28年度末に役務提供を計画していたが,年度末の繁忙期で高額であったため,より低金額の閑散期であるH29年度前半期へ変更した.
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次年度使用額の使用計画 |
直接経費の次年度使用額分は,H29年度前半に上記の役務提供に使用する.そのため,H29年度の研究費は,当初の計画通りに使用する.
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