研究課題/領域番号 |
15K12444
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
中村 俊夫 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 名誉教授 (10135387)
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研究分担者 |
山田 哲也 公益財団法人元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (80261212)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | モルタル / 炭酸カルシウム / 14C年代測定 / 古建築物文化財 / 加速器質量分析 / 混和材 / 段階分解生成物 / コンクリート |
研究実績の概要 |
モルタルは,大気中の二酸化炭素を吸収して,炭酸カルシウムを形成して固化する.固化の際に吸収された二酸化炭素が時計として14C年代測定に用いられる.モルタルの固化に基づく年代測定法は,1960年代から認識されていたが,モルタルを用いた建築物から多量のモルタルを採取してβ線計測法を適用することは難しかった.むしろ,建築に使用された木材を用いた年輪年代法の適用や,木材試料の14C年代測定が利用されてきた.しかし,建築物文化財の正確な建築・修復年代を求めるには,今日では,一つの方法による結果では不十分であり,独立な複数の方法による測定結果の比較検討と総合解析が不可欠である.本年度は,まず,場所を異にするさまざまなモルタル試料に固定され含有されている炭素の量を調査した.モルタル試料は回収できる場所が少ないため,モルタルの一種であるコンクリートも含めて分析試料とした.モルタルの粉末をリン酸分解して回収される二酸化炭素の量は,同一の対象から採取した試料についてほぼ一致する値を示した.他方,採取場所を異にする試料では,回収される二酸化炭素の量は数%から数十%と幅を持つ.採取する試料に含まれるCaCO2以外の不純物の混入が変動の原因である.それらの試料が示す14C年代も大きく変動した.数百BPから1958年以降の核実験起源14Cの混入を示唆する14C濃度も得られた.製作年代が確実に明白なモルタル試料の採取とモルタル固化の実験的研究が,やはり不可欠であることが確認された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究の執行状況を自己評価すると,研究の達成度は,やや遅れ気味である.最大の理由は,使用されているモルタル試料の採取が難しい点にある.築年が明確な建築物に素材の一部として使用されているモルタルを検討しているが,数,量としても,計画している研究に必要なものが入手できないでいる. しかしながら,コンクリートの建築物は身近にたくさん有り,それらの試料を用いて,CO2回収検討に係わる実験を進めてきた.それらの資料の示す14c年代も幅広い範囲を示しており,それらは必ずしも,使用年代(形成年代)を示すものではない.
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今後の研究の推進方策 |
使用時期が確定したモルタル資料の入手が基本である.まず,この問題を解決したうえで,下記のような項目を進めるように努力したい. (1) 炭酸カルシウム(石灰岩)粉末の加熱による酸化カルシウム(CaO)の生成プロセスにおいて,どのような加熱条件で,石灰岩に含まれる炭素が完全に除去できるのか.この過程で,始原原料の石灰岩の炭素がどの程度,どのようにモルタル内に残留するのかを調べる.除去が不十分で古い炭素の残留があれば,モルタルの14C年代測定では,実際よりも古い年代が得られる傾向が予想される. (2) 実際のモルタル年代測定試料では,混和材として植物片が入っている試料に着目し,植物片とモルタルの14C年代を比較する. (3) 最近提案されている,モルタルから炭素の段階抽出(モルタルの分解段階に応じた)と段階的に抽出される二酸化炭素の14C年代の比較を合わせて行う.これは,モルタルの原料に混和剤として混合する砂粒に石灰岩の細粒が混入することを考慮した検討項目であり,モルタル資料の顕微鏡観察や元素分析などにより,石灰岩粒子の有無を検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末になって,モルタル試料等の14C年代測定を行うために,特別な部品が必要になったため,その部品を購入するために必要な金額を計上していた.しかし,部品の納品が間に合わなかったため,購入を次年度に繰り延べすることにした.また,モルタル試料採取のために調査旅費を計上していたが,調査場所が遠方である(熊本県)こともあり,調査するための日程調整ができなかった.そこで,計上していた金額を次年度に引き継いだ.
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次年度使用額の使用計画 |
モルタル試料等の14C年代測定を可能にするために必要な部品であるため,次年度早々に購入して14C年代測定を再開する.また,モルタル試料の調査・採取を実施する.
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