研究課題
微生物による文化財の劣化が問題となっている。本科研費研究では、大気中で測定可能で前処理を必要としないDirect Analysis in Real Timeイオン化質量分析法(DART MS法)を適用し、カビ(真菌)の揮発性代謝物質のオンサイト分析のための新しい分析方法を開発した。古墳で検出されたカビ種、Penicillium paneumおよびFusarium solaniを分析対象とした。これらのカビの分生胞子を、土壌に似た貧栄養培地である変形型Czapek-Dox培地を液体培地または寒天培地の2種類の形体で用い、28℃で5日間培養した。のカビ試料を用い、DARTイオン化効率に対する培地の影響を検討した。ppt~ppbの低濃度の揮発性カビ代謝物を固相マイクロ抽出法により濃縮抽出した。イオン化効率を上げるため、DART質量スペクトル測定には、コロナ放電を備えた大気圧直接イオンソースAMR社DART-OSイオン源も用い、コロナ放電が無い場合と比較した。参照物質として市販のlimonene、geraniolおよびnerolのDART質量スペクトルも測定し、カビ試料のスペクトルと比較した。寒天培地を用いたP. paneum試料の揮発性成分の正イオンモード質量スペクトルには、m/z 203.1808とm/z 205.1963に大きなピークが観測され、これらはそれぞれプロトン付加分子[caryophyllene+H]+とヒドリドイオン脱離分子 [caryophyllene-H]+によるピークであると帰属された。[Glc+Na]+もm/z 203であるが、精密質量測定のスペクトル結果より[Glc+Na]+の可能性は否定された。このことは、DART MSスペクトルには、ナトリウム付加分子が出現しないという今までの報告と一致していた。以上より、簡便なDART法を適用した分析法の開発により、caryophylleneなどのカビ代謝物質を分析できることがわかった。
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The Proceedings of the 11th International Symposium on Atomic Level Characterizations for New Materials and Devices '17
巻: 11 ページ: 199-200