研究課題
オマーンの内陸部のバート遺跡群に位置するワジ(涸れ川)に合流する小規模な扇状地を掘削し、堆積物の詳細な記載と石英および長石のOSL年代測定を行った。その結果によると、扇状地は約1万2千年前に乾燥環境下で、まれに発生する降雨起源の布状洪水により形成されたと考えられる。その後、ワジに恒常的な河川が存在する湿潤期が約1万年前~8千5百年前にあった.その後、ワジの河谷は約6千年前頃までに乾燥化し、堆積物の表層が土壌化した。バート遺跡群の集落が約5千年前頃に成立したことを考えると、乾燥化の直後に灌漑農牧への転換が生じたことになる。このように乾燥地域の扇状地とその周辺域の土地利用の成立について、地考古学の視点から新たな知見を提供した。同様の長期にわたる山麓や低地の地形形成について、シリアで過去に行った調査の成果をまとめ、日本の大阪平野等に関する検討も行った。扇状地の形成に関連して、上流域からの土砂供給に関する総合的な検討を行った。全球規模で既存の侵食速度と土砂流出量のデータを収集して整理し、デジタル標高モデルや電子地質図を用いて地形・地質の特性を定量化して観測地点もしくはその上流域の特性を検討した。その結果、プレート境界からの距離や表面最大加速度といったテクトニクスの指標との対応が明瞭なことが判明した。また、台湾の山地流域において、台風の豪雨によって生じる斜面崩壊に起因する土砂流出について、同国の政府機関が集めた災害のデータなどを用いた詳しい検討を行った。扇状地の人文社会的な特徴を、土地利用変化や防災、地域振興の観点から検討し、社会への働きかけを意識したパンフレットを作成した。その際には、地域の特徴を生かして社会の未来をつくる考え方が伝わるように、観光、ジオパーク、博物館、ESD(持続可能な開発のための教育)等に関する地域の取り組みや、学生の地域観を参考にして内容や表現を工夫した。
3: やや遅れている
平成29年度はオマーンにおける数年間の野外調査の成果がまとまり、扇状地と土地利用の形成に関する新知見が得られた。また、全球の侵食速度に関する検討と台湾の土砂流出に関する検討についても、成果がまとまった国際誌に論文を公表できた。しかし、長野県について予定していた、扇状地と上流域の地形特性と土地利用に関する検討は、地形データの制約などにより遅れた。また、一般向けのパンフレットについても、ほぼ完成したものの、年度内の公開はできなかった。そこで、補助事業期間の一年間の延長を申請し、許可された。
平成30年度中に、長野県を主体とする検討とパンフレットの完成と公開を確実に行う。地形データなどに関する現状での制約に関する見極めは夏までに行い、今年度は制約があっても一通りの作業を行うようにする。
オマーンの調査については、別の団体からの単年度の予算が得られたため、支出が不要となった。また、研究計画の中で、扇状地とその上流域の地形解析に当初の予定よりも時間が必要となった。主な原因は次の二つである。使用している国土地理院の公開データが、最近10m解像度のものから5m解像度に順次置き換わっており、対象地域の一部でこの変化が研究の途中で生じたため、質のより高いデータを用いた再度の解析が必要となった。また、研究代表者が今年度まで大学の部局長を担当しており、それに関連した業務も予想外に増えた。次年度は扇状地とその上流域の地形解析や、投稿論文の英文校閲などに経費を活用する。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 5件、 招待講演 2件)
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