研究課題/領域番号 |
15K12463
|
研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
岡崎 直宣 宮崎大学, 工学部, 教授 (90347047)
|
研究分担者 |
関口 敏 宮崎大学, 農学部, 准教授 (10462780)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 口蹄疫の潜伏期間 / Keelingモデル / 推定 / 偽陽性・偽陰性 / 防疫活動のマネジメント |
研究実績の概要 |
重要家畜伝染病の一つである口蹄疫はより早い段階での防疫措置が必要であるが,感染力が有るにも関わらず感染を確認できない潜伏期間の問題がある.しかし,この問題に対処するための検出薬の開発は行われているが,開発コストの問題がある.また,発症後直ぐの殺処分と埋却は感染拡大を防ぐ上で非常に効果的であることがシミュレーション実験により確認されているが,埋却地確保の時間がボトルネックとなり実現は難しい.そこで,本研究では,Keelingモデルとして知られる口蹄疫の空間伝染モデルを用いて未発症だが既感染の農場を推定するための数理的手法を開発した. しかし,推定精度の向上には限界がある.このため,推定失敗によって生じる可能性のある損失の大きさを考慮し,これをある程度小さく抑えるような殺処分対象領域を決定するための判断基準(以降,単に“判断基準”と記す)を設定する必要がある.本研究では,この判断基準が満たすべき要件を明らかにし,その要件を満たす判断基準の所在を,推定失敗率及び,その内訳である偽陰性率と擬陽性率に基づき合理的に特定する方法を検討した.また,防疫活動の進捗中,設定した判断基準に実効力を持たせるための基本的考え方を,防疫活動進捗のボトルネックとなる要因や,その解消方法と共に言及した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,製造・開発プロセスではメジャーな「(プロジェクトのような)活動全般をマネジメントする」という考え方を,口蹄疫に代表される感染力の強い家畜伝染病の問題に導入することにより,防疫活動の効率化を図れないかといった問題意識で取り組んでいる. 初年度(H27年度)の感染推定手法の開発研究では,感染推定の成功率が最大となる判断基準(具体的には感染/未感染を立て分ける閾値)を見出すことを目標とした.しかし,推定精度の向上には限界がある.そのため,推定失敗のリスクを考慮する必要があり,その場合,推定成功率をより高くする判断基準よりも,むしろ推定失敗による経済的損失をより小さくする判断基準を選択することの方が重要となる.そこで,次年度(H28年度)では,推定失敗による損失をより小さくする判断基準の所在を明らかにするための方法開発に着手し,現在も引き続き行っている.また,この判断基準(閾値)の概念は,感染地域自治体職員の防疫上の意思決定や,それを実施する上での国や農場主との交渉を,合理的に行うためのシナリオを論理的にわかりやすく提供できる可能性を持つことが分かってきた.H28年度は,そのようなシナリオの一例として,国との予算交渉のためのシナリオを示し,シミュレーション実験を通し,そのようなシナリオの妥当性を実証的に示した.
|
今後の研究の推進方策 |
1.H28年度からの「推定失敗による損失をより小さくする判断基準の所在を明らかにするための方法開発」を引き続き行っていく.これは,具体的には,感染症の推定失敗には偽陽性と偽陰性の2種類があること,また,これらの発生率は判断基準に関してトレードオフの関係にあることを考慮し,この2種類の失敗によってもたらされる経済的損失に関する妥協点を見出すための方法の開発研究である.特に,H28年度では偽陰性による損害額の推定の難しさに対する解決策を検討する.具体的には,偽陰性による損害額は,感染拡大による家畜そのものの損害額のみならず,それに関わる他の商業・運輸業の損害額も合算される必要があり,関連性をどこまで辿るべきか曖昧であり,推定誤差の問題も大きいという問題に対し,本研究では,2010年の宮崎県での口蹄疫感染の終息直後に出された「今後5年間での損害額の試算」について調査し,この試算方法を根拠とすることにより,関連性をどこまで辿るべきかの曖昧性の問題に対処する方針である.また,推定誤差の問題には,ベイズ推定法など,既存の統計的手法での対処方法を検討する予定である. 2.判断基準(閾値)のマネジメント上の意思決定や交渉における活用方法についても,H28年度の試みに引き続き,更に検討していく予定である.
|
次年度使用額が生じた理由 |
予定していた学会への参加ができなかったため.
|
次年度使用額の使用計画 |
本年度開催予定の他の学会にて発表の予定.
|