重要家畜伝染病の一つである口蹄疫は,より早い段階での防疫措置が必要であるが,感染力が有るにも関わらず感染を確認できない潜伏期間の問題がある.しかし,この問題に対処するための検出薬の開発は行われているものの,開発コストの問題があり解決は難しいのが現状である.また,発症後直ぐの殺処分と埋却は感染拡大を防ぐ上で非常に効果的であることがシミュレーション実験により確認されているが,埋却地確保のためには様々な問題を解決する必要があり,その時間がボトルネックとなり実現は非常に困難である.そこで,本研究では,Keelingモデルとして知られる口蹄疫の空間伝染モデルを用いて,未発症だが既感染の農場を推定するための数理的手法を開発した. しかし,過去の感染事例から得られるデータは限定的であるため,その推定精度の向上には限界がある.このため,推定失敗によって生じる可能性のある損失の大きさを考慮し,これをある程度小さく抑えるような殺処分対象領域を決定するための判断基準(以降,単に“判断基準”と記す)を設定する必要がある.本研究では,この判断基準が満たすべき要件を明らかにし,その要件を満たす判断基準の所在を,偽陰性率と擬陽性率,および偽陰性による感染拡大リスクに基づき合理的に特定する方法を検討した.なお,感染拡大リスクに関しては,感染拡大による家畜そのものの損害額のみならず,それに関わる地域産業の損害額も合算される必要があることから,2010年の宮崎県での口蹄疫感染の終息直後に出された「今後5年間での損害額の試算」について調査し,より現実に則した検討を行った.
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