一般市民に対する災害時の警告音声に関する認知特性を検討することを目的とした本研究の最終年度では,特に地震,水害などの災害時や突発的に発生した事態に対し,公共放送や施設内放送,携帯端末などからの緊急音声(「避難してください」「逃げなさい」「注意してください」など)に対する印象特性について,実験心理学の立場から精緻かつ実証的に検証した。はじめに災害時の警告音声について,行政や過去の災害報道で使用された音声を,先行研究並びに実際のニュース映像,行政資料などを参考にして検討した。実験では性別(女性or男性),警告用語(「逃げる」,「避難する」)及び緊急性の異なると考えられる表現レベル(勧告「ください」,指示「なさい」,命令「よ」)を操作した各警告アナウンスを実験参加者に掲示し,各アナウンスに対して,その印象を先行研究を参考にして構成された質問項目について,SD法により評価させた。探索的因子分析の結果より,緊迫感,美的,激しさに関連する因子が抽出されたことから,各評価軸について分析したところ,男性よりも女性アナウンスの方が緊迫感や激しさ,さらには避難行動の意図に関する評価得点が高かった。また勧告調よりも指示調や命令調の方に対しても同様の結果となった。これらの結果から,災害時の警告音声・呼びかけに関する発話スタイルについて検討し,実験で得られた心理学的立場からの実証データに基づいて,状況認識モデルによる考察を展開した。さらには,災害発生時に使用される適切な警告音声や情報提供のあり方を提起した。
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