法花粉学的検査の方法論や検査データの科学的解釈法の構築に向けた指針を策定することを念頭に,都市域での表層花粉の堆積様式と衣服への花粉付着様式を明らかにした. 高知市市街の都市緑地と周辺の丘陵地において,植生調査,土壌表層試料の花粉分析および土壌分析を行った.都市緑地では,局地外花粉(丘陵地に主な散布源がある樹種の花粉)が高率を示すことが多かったが,丘陵地で少なく緑地内に偏在する樹種がある場合,その花粉が特徴的に出現した.土壌花粉の保存状態には,特に土壌pHや土性,植被率が影響を及ぼした.都市緑地の土壌花粉の組成は丘陵地のそれよりも多様な上,植栽樹の種組成のほか,植生構造や土壌環境と関連が深く,犯罪現場やその環境の推定に重要である. 衣服の布地上の花粉群を主に構成する,a)空中を飛来し付着する花粉とb)植栽樹に直接,接触し付着する花粉に関して定量的に把握した.a)に関しては,野外に衣服を着せたトルソーを設置し,約3年間にわたり衣服に付着する空中花粉を継続調査した.主な樹木の開花期を中心に衣服には多種類の花粉が多量に付着したが,開花期を過ぎても二次飛散した樹木花粉が相当量,付着した.局地外花粉が付着花粉の過半を占めた.周囲の建物との位置関係,近隣の植栽樹の空間分布,布地の種類の違いなどが付着花粉の量や組成に影響を及ぼした.b)に関しては,3つのモデル植物を選び,開花直後の花に布地を擦りつけ,それらを手で払う,雨にさらす,洗濯するという処理にかけ,花粉の残存様式を調べた.花冠からの雄ずいの露出具合や花粉表面の粘着糸の有無などで花粉の布地への付着様式が異なり,最大で数万粒(/25cm2)に及ぶ多量の花粉が団子状に付着した.bは洗濯するとほぼ除去されるが,手で払っても雨にさらしても完全に除去することは困難であり,aとも付着様式が異なるため,犯罪の現場や態様の推定に役立つ.
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