研究課題/領域番号 |
15K12485
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
大場 武 東海大学, 理学部, 教授 (60203915)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 火山 / 水蒸気噴火 / 火山ガス / 噴気 / 化学組成 / 安定同位体比 |
研究実績の概要 |
本プロジェクトの活動として平成28年度は4 月から翌年2 月まで,箱根山の大涌谷と上湯場の二か所で噴気の採取・分析を,毎月一回の頻度で,繰り返し実施した.箱根山では28年度に27年度のように規模の大きな群発地震は発生しなかった.この状況に関連させ,CO2/CH4比の変動を考察する.火山ガスの成分として,CO2は主にマグマに由来し,CH4は浅部熱水系に由来する.CO2/CH4比の上昇はマグマ脱ガス活動の活発化に対応する.CO2/CH4比は27年の火山活動に対応し,明確な上昇を示したが,その後,急速に低下し,28年度は緩やかな低下傾向を保った.28年10月7日に大涌谷で採取した噴気には,いわゆるシーリングの兆候が観測された.シーリングとは,マグマから発散する揮発性物質が,地殻中の通路の目詰まり(=シーリング)により,浅部熱水系に供給される流量が減少することを意味する.シーリングの具体的な兆候としては,N2/He比が45000へ上昇したことが挙げられる.通常,この比は,4000程度で,27年の活発化の際にも,顕著な上昇が観測されている.10月7日の観測結果を受け,臨時に10月19日に追加の観測を実施したが,通常の値に復帰していた.また10月7日の大涌谷噴気では,H2Oの酸素同位体比(δ18O-SMOW)が-9.7‰まで減少した(図18).酸素同位体比も27年活発化に先立ち低下している.28年10月7日の大涌谷噴気に見られたN2/He比の上昇とH2Oの酸素同位体比の低下は,浅部熱水系でシーリングが起き,マグマ性流体の供給が低下し,それを補うように,地下水成分と大気混入成分が増加したことを示している.シーリングの規模は小さく,そのために,マグマの増圧は起きなかったために,CO2/CH4比に変化が見られなかったと考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初に予定していた通り,箱根山において,毎月一回の観測を実施し,噴気の化学組成および安定同位体比の測定に成功した.その結果,小規模ながら,マグマシーリングの兆候をとらえることに成功した.これは,今後の水蒸気噴火の予知が可能であることを示唆する.
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今後の研究の推進方策 |
箱根山については,昨年度と同様に,毎月一回の観測頻度を維持し,噴気の化学組成および安定同板庇のモニタリングを継続する.箱根山以外では,草津白根山,霧島硫黄山,那須岳において火山ガスの採取・分析を実施し,噴火ポテンシャルの評価を試みる.
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次年度使用額が生じた理由 |
火山ガスの化学分析に必要な試薬等への支出について,他の予算の利用が可能となり,結果として次年度使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
発生した次年度使用額は,活火山における調査の回数を増やすために必要な旅費に充てる.
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