研究課題/領域番号 |
15K12490
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
小泉 圭吾 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10362667)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 健全度診断 / 変位 / 土砂災害 / 画像解析 / リアルタイム監視 |
研究実績の概要 |
供用から50年以上が経過した土木構造物の劣化診断は現在の社会インフラを維持管理していく上で喫緊の課題である。本申請研究では切土のり面を対象に、画像処理技術を利用し、大規模な計測装置の設置を行うことなく、表面亀裂の発達過程を面的に常時計測することが可能な、のり面亀裂変位検出システム(Visual-M3)を開発することを目的とした。 今年度の成果として、二次元の亀裂変位を複数点同時に計測できるプログラムを開発し、室内模型斜面実験により、斜面崩壊に伴う変位の検出が可能であることを確認した。具体的には、散水による模型斜面の飽和度の変化と、開発したVisual-M3を用いて計測した変位の発現タイミングに関連性が確認された。このことから模型実験スケールではあるが、変位が発生する前に崩壊を予測できる可能性が示唆された。次に、屋外での計測に際しては、気象条件の変化による精度低下が予測されることから、それらノイズに対して極力ロバストな画像処理プログラムを実装し、これに対する対策準備を行った。また、次年度に予定していた屋外現場でのリアルタイム監視システムの開発を一部前倒して行った。具体的には、当初予定していたAC電源による計測システムを止めて、より汎用性の高いソーラーパネルと蓄電池で駆動するシステムの基本設計を完了した。 一方、吹付工等の劣化予測を目的に、気温変化と亀裂変位の関係性に関する実験を行った結果、気温変化が僅かな場合に十分な精度での変位検出が困難であることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた二次元の亀裂変位を複数点同時に計測できるプログラムを開発した点、本装置を用いて、模型斜面実験において崩壊の予兆を未然に予測できる可能性を明らかにした点、次年度予定していた屋外計測システムの開発を一部前倒しで行った点などは当初予定よりも順調に進んでいる。一方、気温変化と亀裂変位の関係から吹付工の劣化状況を推定するための基礎実験については、当初想定していた成果が得られない結果となった。従ってこれらを考慮して、進捗状況を評価した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度行った研究成果より、のり面構造物の中でも地山が露出している植栽工等を対象とした場合と、モルタル等で覆われている吹付工などを対象とした場合とでは、気象条件によって本システムの有効性に差があることが確認された。前者の場合は常時、緊急時ともに、研究者らが開発してきた無線センサネットワークによる土砂災害監視システムと融合することで、本測定手法がより効果的に機能することが考えられるのに対し、後者の場合は常時における劣化度診断に十分対応できないことが確認された。そこで、最終年度である次年度は本システムの実務への適用性を高めることを最優先課題とし、機能の一部の追加、削除の選別を行うこととする。まず、IoT技術を使うことで、対象のり面の面的な変位監視に加え、画像による可視化および雨量情報を融合することで、常時から緊急時における対象のり面の健全度をリアルタイムに観測できるシステムを開発する。また、電源の引込が困難な現場においても本システムの運用が可能なように、電源はソーラーパネルと鉛蓄電池で設計し、次年度中の実用化を目指す。一方、次年度予定していた三次元化については、技術的には可能であるが、今年度の研究結果より十分な精度が見込めないことと、研究者らが開発した無線センサネットワークによる土砂災害監視システムと組合せることで、より低コストな装置で三次元の変位観測が可能となることから当項目については開発を見直すこととする。
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