研究では,高水発生中の河川堤防の治水安全性を堤防の微小な形状変化から評価し,危険箇所を特定する方法構築の可能性を明らかにすることを目的とする。この研究課題は,国の直轄区間だけでも2万kmを越える膨大な延長を有する我が国の河川堤防の全体を対象としている点に特徴があり,潜在的に抱える被害の甚大さは巨大である。今日でも頻発する洪水による破堤に対しては,出水中の目視による点検が江戸時代から現在に至るまで続けられてきた唯一の方法であり,漏水や法面崩壊などの異常発見後には時間的な制約から取り得る対処は限定的である。そこで,堤防全体にわたってリアルタイムで取得可能な唯一の情報である高精度の堤防面形状データを用い,堤体内部の浸水や内部洗掘による状態と安定性を評価する方法の構築の緒とするため,降雨及び高水の浸透により生じる堤体形状の微小だが特徴的な変形パターンに着目し,変形パターンと堤体及び基礎地盤内パイピングの関係を遠心模型実験により明らかにした。 平成28年度は,堤体が砂質土だけではなく細粒分の多いシルト質土や粘性土の場合について実験を行い,それを元に表面の形状からパイピングの位置,規模を特定できるモデルを開発した。また、平成27年東北・関東豪雨災害により被災した鬼怒川堤防で漏水や噴砂を発生した箇所において表面形状の調査、およびパイピング部を特定するための簡易緩急試験、物理探査を行った。構築したモデルと表面形状の調査結果を基に推定したパイピング部は、緩急試験により特定された緩み箇所とほぼ一致し、本方法によりパイピング部を特定しうることが確認できた。
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