災害リスクの構成要素であるところの脆弱性評価についての基礎的な研究を実施した。昨年度実施した災害リスク評価に関する先行研究では、脆弱性を構成すると思われる社会的指標を合成して脆弱性指標を作成するアプローチと、実際に起こった災害の被害データから脆弱性を推測するアプローチの二つが存在する。前者はカッターらによる一連の研究が有名で、派生的研究も多いが、後者はデータの制約から研究が少ない。しかしながら、カッター自身も認めているように、合成指標としての脆弱性指標の問題は、それらが本当に災害脆弱性を表しているかどうかという実証的な根拠に乏しいことである。 この問題を克服するために、我々は我が国の市町村ごとの水害統計データを用いて、ペドッチによる実証的脆弱性評価の手法を応用し、市町村脆弱性を評価する研究を行った。データは市町村ごとの水害被害額について2000年以降15年のパネルデータを用いた。これらを被説明変数とし、説明変数には、以下の変数を用いた。第一にハザード変数として、1時間最大降水量、3時間最大降水量、24時間最大降水量である。さらにこれらを市町村ごとに評価したものと、推計流域ごとに評価したものの二種類を用いた。第二に、暴露変数として、浸水想定区域面積率、土砂災害系化区域面積率、人口密度、面積当たり舗装道路実延長を用いた。第三に脆弱性指標として、市街化区域面積率、15歳以上人口、1人当たり生活保護費、財政力指数、耕地面積率、一人当たり課税対象所得、転入率、転出率、消防比率、行政職員率を用いた。 これらのパネル回帰分析は、説明変数間に多重共線性もいくつか見られることから、慎重に分析を進めている途上であるが、ハザード変数がかなりの程度被害を説明していることや、一人当たり課税所得の係数は負で有意であることなどは頑強な結果であるといえる。
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