平成28年度は、(1)脂肪血管標的型ナノDDSのスケールアップ調製法の最適化と(2)ナノDDSが脂肪血管内皮細胞に取り込まれる際のメカニズムの解明、の2点を達成した。 (1)に関しては、平成27年度のW/O/W型エマルジョンを用いた検討結果をもとに、ナノDDSを構成する脂質を溶解するための有機溶媒の組成について最適化を行った。その結果、n-ヘキサンとジクロロメタンを3:1の比率で混合した溶媒を使用することで、水溶性タンパク質であるシトクロムCを50%という高効率で再現良くナノDDSに封入できることを見出した。また、本法で調製した蛍光標識ナノDDSをマウスに尾静脈より投与し、24時間後に脂肪組織を摘出して共焦点レーザー走査型顕微鏡を用いて観察したところ、標的化リガンド非搭載のナノDDSの脂肪血管への集積はほとんど認められなかったのに対し、標的化リガンドを搭載したナノDDSは脂肪血管に高度に分布することが明らかとなり、本法はin vivo応用に適したナノDDSの調製法として適用可能であることが判明した。 (2)に関しては、これまでの研究で、脂肪血管標的化ナノDDSがprohibitinとの相互作用によるエンドサイトーシスで脂肪血管内皮細胞に取り込まれることが明らかとなっていため、さらにその詳細なメカニズムを解明する目的で、種々のエンドサイトーシス阻害剤を用いて特定の経路を阻害した場合のナノDDSの取り込みへの影響を調べた。その結果、脂肪血管標的型ナノDDSは、カベオラ/脂質ラフト介在性経路、およびPI3K非依存的マクロピノサイトーシスの2通りのメカニズムで取り込まれることが明らかとなった。さらに、PI3K非依存的マクロピノサイトーシスで取り込まれたナノDDSはリソソーム分解系を回避できることも初めて明らかとした。
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