研究実績の概要 |
血管吻合技術を有効に活用できる応用手術として冠動脈バイパス手術を対象とし,心臓表面の冠動脈にバイパス用血管を吻合する装置の開発を行った.加熱部周辺組織損傷回避のために加熱範囲が最小,バイパス用血管の取り付けが簡便,小型な冠動脈接合装置の実現を目指してプロトタイプ機を設計・製作した.本デバイスは,陰圧吸引により柔軟生体組織である冠動脈とバイパス用血管を固定,内筒管にニクロム線を用いて熱誘導し加熱,加圧機構で血管同士を挟み込み圧力付加する.鉗子状加圧機構により,操作性を向上,吻合部への的確な加圧を実現した.外筒の先端部分を段状,テーパー加工して吻合部の目視を容易にした.内筒と生体試料の接着を抑制するために内筒の先端部にテフロンコーティングを行い,血管のデバイスへの接着を防止した. 成山羊を用いて本デバイスの評価動物実験を行った.その結果,胸腔内の冠動脈にアクセスするためには内筒ヒータ直径が太く,加圧鉗子部も周囲と干渉すること,加熱内筒内部に通したバイパスグラフトが加熱損傷すること,陰圧による位置決め精度が低いこと,融着面の視認が困難であること,等が問題として挙げられた.本問題を解決するためにプロトタイプ2号機を設計,製作した.熱源とバイパスグラフトとの接触を減らすために,加熱機構を内筒内部から加圧アーム部に移動した.これにより内筒部の直径の減少,バイパスグラフトの低損傷を実現した.トング機構を用いて加圧アーム部の幅を減少すると共に加圧アーム部をスライダ機構により上下位置変更可能とすることで,血管接着時の接着部の位置決め精度の向上と視認性の向上を図った.プロトタイプ2号機の血管接合強度は0.023 MPaと1号機の0.022MPaと同様の接合性能を得,120℃までの加熱に要する時間は1号機の40秒に対して2号機が20秒と縮小に成功した.今後,動物実験にて評価・改良を進めていく.
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