本研究は,眼底虚血疾患における眼底血管内および周辺細胞内の酸素濃度(分圧)を定量的に計測・イメージングするための眼底顕微りん光寿命イメージング装置およびりん光プローブ分子を開発することである。本年度は,小動物の眼底部をイメージングする試薬の開発,および平成27年度に開発した眼底顕微りん光寿命イメージング装置を用いてマウス眼底部のりん光寿命イメージングを実施した。 眼底イメージング用試薬は,眼底血管造影剤であるフルオレセインの吸収・蛍光とは異なる波長域に吸収・りん光を示す化合物を合成した。具体的には,532nmのレーザーで励起することができ,かつ710nmの近赤外光領域にりん光を示す化合物である。この化合物の小動物への投与性を向上させるために,ポリエチレングリコールを結合させた。合成した化合物(DTTPHPEG24)の酸素応答性を確認するため,水中アルブミン存在下においてりん光寿命の計測を行った。その結果,DTTPHPEG24はアルブミンに取り込まれ,また,溶存酸素濃度の減少とともにりん光寿命の増加を示した。 DTTPHPEG24およびフルオレセインをウサギに投与して,マクロズーム顕微鏡でウサギ眼底部を観察したところ,フルオレセインの緑色蛍光から網膜組織の構造をイメージングすることができ,また,DTTPHPEG24に由来する近赤外りん光が,眼底血管および網膜組織から観測された。また,ウサギの吸気酸素濃度を減少させるとDTTPHPEG24のりん光寿命が増加し,また,元に戻すとりん光寿命が回復した。この現象は,血管だけでなく網膜組織においても観察されたことから,本システムを用いることで,血管と組織の酸素化状態を同時にイメージング出来ることが明らかとなった。
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