研究課題/領域番号 |
15K12510
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
和田 成生 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (70240546)
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研究分担者 |
伊井 仁志 大阪大学, 基礎工学研究科, 特任准教授(常勤) (50513016) [辞退]
越山 顕一朗 大阪大学, 基礎工学研究科, 講師 (80467513)
新岡 宏彦 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (70552074)
大谷 智仁 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (40778990)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 血栓 / 内部構造 / フィブリン / 離散要素モデル / ブラウン動力学 / イオンビーム集束型電子顕微鏡 |
研究実績の概要 |
フィブリン前駆体であるプロトフィブリルの凝集現象を扱うことが可能な物理シミュレーションモデルを構築した.単一のプロトフィブリルの伸縮・曲げ・ねじりに対する離散要素を組み合わせたファイバーモデルを構築し,溶媒分子との相互作用を統計的に扱うランジュバン方程式を運動方程式に採用した.また,ファイバーモデル間に作用するポテンシャルを考慮することで,プロトフィブリル同士の接触および凝集を扱った.一辺3umの立方領域内にファイバーをランダムに配置し周期境界条件のもと時間発展シミュレーションを行った.その結果,ファイバーモデルは揺動的な運動をしながら繊維状の凝集形態をとるとともに分岐をともなう凝集網を形成することを確認した.また,ファイバーモデルの曲げ剛性を変えてシミュレーションを行ったところ,最終的な凝集網の形態に影響を与えることが分かった.これらより,プロトフィブリルの力学特性変化がフィブリン凝集体の内部構造に影響を与えることが示唆された. マクロ場での血栓生成を扱うため血流・生化学反応連成解析手法の構築を行った.血液を非圧縮粘性流体,血栓を粘弾性体として構成方程式を適用し,オイラー型および混合定式化により直交格子を用いた計算モデルを構築した.また,ひずみエネルギによる結合解離状態変化を確率論的に扱うアプローチにより血栓破壊の再現を試みた.深部静脈血栓を対象とし解析系を構築しシミュレーションを行ったところ,筋収縮ポンプによる流体加速が血栓成長を促進し,血栓形成の局在性が出ることを明らかにした. 血栓内部構造の詳細を明らかにするため,イオンビーム集束型電子顕微鏡(FIB-SEM)による3次元観察を行い,nmレベルの高空間分解能で観察することに成功した.FIB-SEMの観察範囲は狭いため,フィブリン繊維網などの特徴的な構造が存在する場所を観察するのは難しく,今後の手法改善が必要である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
プロトフィブリル凝集モデルにより,血栓内のフィブリン線維網の複雑形態を力学的に再現することが可能となった.これは,血球成分の有無,凝固因子の多寡,血流動態の変化など様々な条件における血栓内部構造の再現に繋がっていく. 直交格子を用いた血流・生化学反応連成解析アプローチにより,マクロ場における血流中での血栓生成およびその力学特性を反映しつつ局所的な破断を扱うことが可能となった.これらは,臨床場を対象とした解析,またプロトフィブリル凝集モデルの解析結果による知見を反映させることに繋がっていく.
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今後の研究の推進方策 |
プロトフィブリル凝集シミュレーション結果と先行実験観察結果の定量的な比較を行い,力学パラメータの感度解析やモデル妥当性のより詳細な検討を行う.また,解析アルゴリズムの高速化を行うことで,解析サイズを1オーダー上げ,マクロスケールにおけるフィブリン線維網を再現しその形成メカニズムを明らかにするとともに,形態と力学特性の関係を明らかにする.また,これによりマクロスケール解析との連携を行う. 破断モデルの更なる改良を行い,力学要因による血栓破壊を数値シミュレーションにより再現する.さらに,上記シミュレーションより得られた知見をマクロ場での血流・生化学反応連成モデルに反映させることで,血流場の違いにより内部構造および力学的性状の異なる血栓が形成されるメカニズムを解明する. FIB-SEMを用いてフィブリン繊維網などの特徴的な血栓内部構造を観察する手法を確立する.事前に2光子蛍光顕微鏡や共焦点顕微鏡などで3次元的にフィブリン繊維網の場所をイメージングしてから同一の場所をFIB-SEMで観察行する.すなわち,光・電子相関顕微鏡法を用いることで達成する.
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次年度使用額が生じた理由 |
計算解析に関しては,構築したモデルの基本的特性を検証する段階であり,研究室の既存の設備で実行することができた.また,実験試料の作成に関わる経費も共同研究先が負担してくれているため,当初の計画より物品費が低く抑えらており,次年度に使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は最終年度になるため,実際に近い状況での血栓形成の計算解析を行うために,大規模計算の環境を整える必要があり,そのために予算を使用する予定である.また,成果を国際会議等で発表するための経費として使用する予定である.
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