研究課題/領域番号 |
15K12515
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研究機関 | 秋田県立大学 |
研究代表者 |
矢野 哲也 秋田県立大学, システム科学技術学部, 助教 (70404853)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 人工心臓 / 血液ポンプ / 溶血試験 / 赤血球 / 細胞膜損傷 / 光学計測 / 大気圧プラズマ |
研究実績の概要 |
血液ポンプをはじめとする血液接触型医療機器の血液適合性試験の一つとして実施される溶血試験は,機器運転中の血球破壊の程度を評価するものであり,動物血を使用することから,試料の個体差に起因する問題がある.本研究課題では,この問題を回避するために,迅速・簡便な血液性状スクリーニング法を確立することを目指し,研究を推進している.平成27年度は次の成果が得られた. ①溶血試験の結果を左右する動物血の初期性状を光学的手法により迅速かつ簡便に評価する方法について検討した.この方法は,血液から採取した赤血球を低張液に曝露することにより,急速に浸透圧溶血を誘起し,その間の血球の膨潤および崩壊過程における光学特性の変化を調べる方法である.赤血球分散液の透過光強度を数分間連続計測し,その変化速度から赤血球膜脆弱性を評価可能であることを確認した.この結果から,溶血試験用血液のスクリーニングへの適用可能性が示された. ②低張液中での赤血球の膨潤,崩壊等の過程を顕微鏡下で観察し,試料赤血球溶液の光学特性変化と血球の形態変化との対応を光散乱理論に基づき考察した結果,特定の散乱角の散乱光強度を連続計測することにより,血球容積が単調に増加する膨潤過程における血球径変化をキャリブレーションなしで計測可能であることを確認した.この結果から,低張曝露直後の数秒間の血球径変化に着目することにより,血球性状評価の更なる迅速化の可能性が示された. ③大気圧低温プラズマ照射による細胞膜穿孔と,その膜小孔を通して細胞内へ物質を導入する技術の開発にあたり,プラズマ照射に伴う細胞膜性状の変化を調べるために提案手法を適用したところ,脆弱性の高い細胞から優先的に膜損傷が進んでいることを示す結果が得られた.この結果から,本手法による評価結果は,細胞内物質導入に最適なプラズマ照射条件を見出すための指針になりうると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,光学的手法による血球損傷度評価法の確立に重点を置いて研究を実施した.その結果,次の成果が得られた.①低張液中での赤血球の膨潤,崩壊等の過程を顕微鏡下で観察し,試料赤血球分散液の光学特性変化と血球の膨潤,崩壊との対応を光散乱理論に基づき考察した結果,新しい知見を得た.浸透圧溶血過程の極初期における血球径変化に注目することにより,当初予定の方法と比較して,より迅速な血球性状評価の可能性が示された.②新たな試みとして,大気圧プラズマ照射による細胞内物質導入技術の開発にあたり,本提案手法を用いた細胞膜損傷の進行過程の評価を行い,その適用可能性を確認した.これは,最適プラズマ照射条件の探索に定量的な指標を与えるものであり,これまで試行錯誤的に行われてきた試験を改善できる可能性がある.以上の点において,研究開始当初の予定を超える成果が得られている.一方,平成27年度中に,血液ポンプによる循環試験を行う設備が整わず,長期循環試験中の血液試料について提案手法による血球損傷度評価が未実施の状況である.これらを総合して,本研究課題は概ね順調に進行できていると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の研究推進方策としては,新たに提案した血球損傷度評価法を基に応用展開を図るための研究を中心に推進する予定である.1)溶血試験用血液のスクリーニング ①血液保存液の種類,保存期間の異なる血液試料,②膜の化学処理等を施した血球を含む血液試料等を用意し,提案手法による血球性状評価を行う.また,同試料を用いて通常の溶血試験を行い,初期の赤血球損傷度と溶血試験結果との対応を確認する.これにより,溶血試験用血液のスクリーニングへの本手法適用可能性を検証する.2)新規溶血性能評価法 血液ポンプによる長期循環試験中の血液試料について,提案手法による血球損傷度評価結果と従来の遊離ヘモグロビン濃度測定結果との相関を調べ,本手法の溶血試験としての適用可能性について検討する.3)オンチップ血液検査 オンチップ血液検査用のマイクロ流体制御素子の設計を行う.数値流体解析(CFD解析)により,試料血液と薬液等の混合が適切に進むように,流路構造を設計する.また,本装置に適合する光学系を設計し,試験を実施する.4)体外循環装置使用時の血液性状のモニタリング 体外循環装置に,市販のサンプリングルアーポートを介して接続可能な血液性状モニタリング用の流路を設計する.CFD解析を援用し,適切な流路構造を決定する.
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次年度使用額が生じた理由 |
光学計測に適切な機器の選定に時間を要したことと,次年度の所属機関異動が予定されたことから,平成27年度後期においては,貸出機器を用いて実験を実施した.当該機器を導入するための物品購入費分を平成28年度に繰り越した.
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度分からの繰り越し分については,光学計測用機器の購入費に充てる.研究計画に変更はなく,当初予定どおりに計画を進めていく.
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