血液循環補助に用いられる埋込型補助人工心臓や体外式血液ポンプなどの血液接触型医療機器の血液適合性試験の一つである溶血試験を改善すること,すなわち,高い血液適合性を有する低溶血量の高性能デバイスの評価への対応および迅速,簡便化を目指して研究を推進してきた.本課題で提案する方法は,等張液に赤血球を微量分散した試料液に純水を加えることにより,赤血球を低張環境に曝し急速に膨潤,崩壊させ,その過程における試料液の光学特性の時間変化に基づき血球の膜性状を評価するものである.29年度中には次の成果が得られた. 1)溶血試験用血液のスクリーニング ①円錐平板型せん断負荷装置を用いて一定せん断応力を一定時間負荷したブタ赤血球の膜性状の評価を行った.その結果,10 Paのオーダーの比較的低いせん断応力の負荷による赤血球膜性状の変化を検出できることを確認した. 2)大気圧低温プラズマの短時間照射による赤血球膜性状変化の評価 赤血球分散液にガス流量一定の条件で電極間電圧を変化させてプラズマを照射し,血球膜性状の変化を調べた.その結果,電極間電圧の増加により気体の電離度が上昇し,液中に輸送される活性化学種の量が増加することで,脂質過酸化反応による細胞膜損傷のプロセスが促進されることを確認できた.さらに,プラズマ照射した試料液の上層および下層のそれぞれに含まれる赤血球の膜性状に明確な差が認められ,プラズマ影響領域が照射液面近傍に限定されていることがわかった. まとめ) 本提案手法は,血球の力学特性の変化を簡便に評価することが可能であり,赤血球から漏出したヘモグロビン量に基づく従来方式の溶血試験では比較評価が不可能な高性能デバイスの評価への適用可能性が示された.また,細胞改変を目的とした細胞内への物質導入技術を使用した場合の細胞性状の変化を評価することも可能であり,その改善に役立てられると考えられる.
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