研究課題/領域番号 |
15K12521
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
須藤 亮 慶應義塾大学, 理工学部, 准教授 (20407141)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 三次元浸潤モデル |
研究実績の概要 |
本研究では、マイクロ流体デバイスを用いてグリオーマ幹細胞と血管内皮細胞の共培養を行い、微小培養環境を制御することで、バイオメカニクスの観点からグリオーマ幹細胞の三次元浸潤プロセスを解明する。特に、微小培養環境因子として、①グリオーマ幹細胞の分化状態、②力学的な環境因子(間質流)、③血管との相互作用(血管内皮細胞との共培養)、の3点に着目し、グリオーマ幹細胞の浸潤を支配する環境因子を明らかにすることを目的としている。平成27年度は、三次元浸潤モデルの構築を中心に検討し、具体的には以下の研究成果を得た。 ①マイクロ流体デバイスの作製とグリオーマ幹細胞の三次元浸潤モデル構築: マイクロ流体デバイスを用いてグリオーマ幹細胞の培養を行った。マイクロ流体デバイスはマイクロ流路パターンを転写したシリコーンゴムとカバーガラスをプラズマ接着することによって作製し、細胞の足場にコラーゲンゲル、フィブリンゲルを用いた。マイクロ流体デバイスに播種された細胞はゲル表面に接着し、三次元ゲル内部に浸潤する様子が観察された。 ②グリオーマ幹細胞の分化・未分化状態と浸潤形態の定量的評価: 培養液へ添加する因子を調整することによってグリオーマ幹細胞の分化・未分化状態を調節し、三次元浸潤形態やプロセスにどのような影響を及ぼすのか調べた。その結果、グリオーマ幹細胞の浸潤距離は分化条件よりも未分化条件の方が長くなることがわかった。また、細胞塊形成能力にも違いがあり、分化条件においてより多くの細胞塊が形成されることがわかった。 ③グリオーマ幹細胞の浸潤に対する間質流の影響: 間質流のもとでグリオーマ幹細胞を培養し、浸潤プロセスを観察できることを確認した。 ④血管内皮細胞との相互作用の解析: グリオーマ幹細胞と血管内皮細胞の共培養モデルを構築し、血管内皮細胞がグリオーマ幹細胞の浸潤を促進する傾向にあることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の計画は、マイクロ流体デバイスを用いてグリオーマ幹細胞と血管内皮細胞の共培養を行い、三次元浸潤モデルを構築することを中心に進めたが、グリオーマ幹細胞が足場となるコラーゲンやフィブリンのゲルの内部を三次元的に浸潤する様子が観察された。これらの実験は再現性も確認されており、安定的に実験が進められている。また、間質流を負荷する実験や、血管内皮細胞との相互作用を調べる実験については予備的に検討する予定であったが、どちらも実験可能であることが確認済みであり、平成28年度から本格的に研究を展開することができる状況にある。以上の点から、現在までの進捗状況はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度において予備的な検討を進めた項目③および④に着目し、間質流の効果や血管内細胞との相互作用を調べるための実験を重点的に遂行する。 具体的には以下の項目について取り組む。 ①グリオーマ幹細胞の浸潤に対する間質流の影響: 本研究で使用するマイクロ流体デバイスは間質流を負荷することができる点が従来の培養法では実現することのできなかった大きな利点である。生体内の環境では血管からリンパ管に向かって間質を流れていく非常に遅い流れ(間質流)が存在する。また、腫瘍血管は透過性が高いことが知られており、がん細胞は常に間質流に晒された環境にあると考えられている。そこで、本研究においてグリオーマ幹細胞に間質流を負荷した場合に、分化・未分化状態の細胞にそれぞれどのような影響を与えるのか、細胞形態や浸潤プロセスを調べることは大変意義深い。特に、間質流が浸潤速度、遊走形態、細胞接着タンパク質の発現にどのような影響を与えるのか位相差顕微鏡および共焦点レーザー蛍光顕微鏡による画像解析によって明らかにする。さらに、間質流の向きと浸潤方向の関係や、グリオーマ幹細胞の分化状態に与える影響についても検討する。 ②血管内皮細胞との相互作用の解析(共培養モデルへの展開): グリオーマの浸潤と血管の位置には密接な関係があると考えられている。本研究で使用するマイクロ流体デバイスはコラーゲンゲルを介して2本のマイクロ流路を有する。そこで、一方にグリオーマ幹細胞、もう一方に血管内皮細胞を播種することで共培養モデルに発展させ、形態形成および細胞遊走の観点からグリオーマ-血管相互作用について定量的に解析する。特に、細胞の浸潤距離や細胞塊形成能力などの現象に着目する。さらに、相互作用の原因の解明にも取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
マイクロ流体デバイスの作製とグリオーマ幹細胞の三次元浸潤モデル構築に関する実験が当初の予定よりも効率的に進み、関連する試薬・器具を節約することができたため。
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次年度使用額の使用計画 |
今後の研究において間質流や血管内皮細胞の存在がグリオーマ幹細胞の浸潤プロセスに影響を与えることを定量的に評価する予定であるが、それに続いて現象のメカニズムを検討するための実験を行う。メカニズムを検討する実験では、遺伝子解析や阻害剤・中和抗体などを添加する実験を行うため、これらの実験に必要となる生化学的な試薬が比較的高額となる。そこで、これらの試薬の購入に次年度使用額を充当する。
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