本研究では、マイクロ流体デバイスを用いてグリオーマ幹細胞と血管内皮細胞の共培養を行い、微小培養環境を制御することで、バイオメカニクスの観点からグリオーマ幹細胞の三次元浸潤プロセスを解明する。特に、微小培養環境因子として、①グリオーマ幹細胞の分化状態、②力学的な環境因子(間質流)、③血管との相互作用(血管内皮細胞との共培養)、の3点に着目し、グリオーマ幹細胞の浸潤を支配する環境因子を明らかにすることを目的としている。平成28年度は、間質流が浸潤に与える影響および血管との相互作用を中心に検討した。 具体的には以下の研究成果を得た。 ①グリオーマ幹細胞の浸潤に対する間質流の影響: 生体内においてがん細胞は常に間質流に晒された環境にあると考えられている。そこで、本研究ではマイクロ流体デバイスを用いてグリオーマ幹細胞に間質流を負荷した場合に、細胞形態や浸潤プロセスに与える影響を調べた。まず、間質流の方向について検討した結果、グリオーマ幹細胞は間質流と同じ方向に浸潤する傾向にあることがわかった。また、間質流の強さを検討した結果、分化誘導細胞に液面差2.5、5、10 mmに相当する3種類の間質流を負荷すると、最も強い間質流において浸潤距離が有意に大きくなることがわかった。次に、さらに強い間質流として液面差20 mmで実験を行った。その結果、間質流によってグリオーマ幹細胞におけるタンパク質分解酵素の発現が上昇し、ゲルが溶解・崩壊する現象が確認された。 ②血管内皮細胞との相互作用の解析(共培養モデルへの展開): グリオーマの浸潤と血管の位置には密接な関係があると考えられている。そこで、本研究ではマイクロ流体デバイスを用いてグリオーマ幹細胞と血管内皮細胞の共培養モデルを構築した。その結果、共培養においてグリオーマ幹細胞の浸潤能力が上昇することが明らかになった。
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