今年度の研究実施は当初計画から大きく方向性を変えての実施となった。当初は、固形がんに超音波照射し発生したNOにより(1)radio-sensitizerとして放射線治療の効果を高める、(2)血管透過性を増大させ高分子ミセル型抗がん剤の到達効率を高める、ことによる新規併用療法開発が目的であった。方向性変えた理由は、超音波照射の効果に大きく影響する超音波の組織透過率に関する重大な発見があったからである。前年に、平板の人工骨モデルを用いた場合、ミリ単位の位置の違いで照射超音波強度が10倍以上にも変動することを見いだした。これに引き続いて、ヒト頭蓋骨で同様な測定をしたところ、予想に反して(形状が複雑な頭蓋骨の場合には、大きな変動は観察されないであろうというのが予想であった)大きな変動が観察された。この大きな変動は従来、予想も実証もされていなかったことと、生体の超音波透過率はがん治療のみではなく、急性期脳梗塞治療など医療の広い用途で最重要なパラメターであることから、透過率を複数の頭蓋骨と測定ポイントで測定し、生体での変動挙動を正確に求めることが必要と判断したためであった。 研究は、500kHzの超音波を照射しヒト頭蓋骨を透過した超音波強度をハイドロフォンで測定した。ヒト頭蓋骨は3体用いた。照射部位の深さ、超音波周波数、超音波プローブの骨表面からの距離(皮膚厚に相当する)を変えると部位が受ける超音波強度が周期的に最大4倍程度、平均でも2倍程度変動すること、その変動が理論および平板の骨モデルと良く一致することを発見した。従来は、このような変動があり得ても、骨透過率の違いの中に埋没するため重要ではないとされてきた。本研究では、位置情報の正確な実験系を組み立て、多くの部位での測定を行うことで(変動の小さな部位もある)、この変動を初めて実証する成果に結びついた。
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