本研究では,サッケードの初期情報からの到達視点予測,そして頭部位置・姿勢の高精度計測によって中心暗点シミュレータの実現を目指し,(1)ユーザの目を高速度(500 fps)で撮影しほぼ実時間で瞳孔重心を検出できる瞳孔検出システムを開発し,サッケードの初期挙動(数ms)で視線の行き先(次の注視点)を予測し,(2)頭部の位置・姿勢を高精度で計測することにより,Head-freeで視角0.5 deg以内で注視点予測を行う中心暗点シミュレータを開発することを試みてきた.これまで,頭部の位置・姿勢を高精度で計測するためのマーカの開発はほぼ完了したが,高速に瞳孔を検出するシステムの開発において,種々の環境条件の影響により,視線推定精度が当初の計画の精度を満たさないことが判明した.そこで,これまでの知見を活かしヒト視覚系の注視点の挙動に関する研究へと計画を変更した. ヒトは多くの選択肢の中から比較的短時間でターゲットを発見することができる.このような視覚探索の効率性を説明するために,探索画面上で観察される注視点の軌跡がスモールワールドネットワークの特徴をもち,探索時間の短縮に貢献するという仮説をたてた.注視点追跡実験により注視点移動長を測定し,その頻度がべき乗分布を示すこと(べき指数が約2.4)と,注視点移動長の時系列が長期記憶性を有すること(ハースト指数が約0.7)の2点を確かめた.さらに,注視点の移動長の時系列を数学的にモデル化した.モデルを用いたシミュレーションにより,べき指数が実験値に近づくにつれて探索時間が最短になり,視覚探索時の眼球運動は探索時間を短縮するように最適化される可能性を示唆した.
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