PGA及びシルクフィブロインのナノファイバーの配向集合体で、細胞のファイバーに沿った伸展を比較的安定的に得られる条件(材料・繊維密度)が得られてきたので、最終年度は、これらの材料を用いて細胞の走化性を得られるか、システムデバイス作りを進めた。具体的には、初年度作製の還流型の細胞培養用フローチャンバーへ上記ファイバー基材を組み込み、還流液の上流側からFBSを一定量添加することで下流側に向けてFBSの濃度勾配が生じるシステムを作り、下流側に播種細胞を置くことで、FBSリッチな上流方向への細胞移動が観察されるかどうかをタイムラプス型の蛍光顕微鏡を用いて評価するシステムである。試作チャンバーを用いて再度チャレンジしたが、やはり、残念ながら細胞の十分な走化性は得られなかった。そこで、ファイバー上での導入効率を向上させるために、パッションフルール様構造を持つコアシェル型ナノ粒子(内部にポリエチレンイミンとGFPターゲットのsiRNAを内包しシェルがシリカで構成されるナノ粒子とポリグリコール酸(PGA)のナノファイバーのコンポジットを作製し、GFP-Hela 細胞の進展、移動及びGFPの消光に関して評価を行った結果、細胞の初期的なファイバー上への進展とGFPの消光が確認されたが併せて細胞毒性のための細胞死も認められ、残念ながら当初の目論見の高効率に遺伝子導入の順番を制御できるツールを完成することはできなかった。しかしながら、ナノファイバー上では、細胞が大きく変形し、細胞膜から核までの距離が通常より近接した状態をとり、核への物質移行が有利な状態になっている可能性は共焦点レーザー顕微鏡の観察等で確認出来た。これは、今回企図したデバイスの完成まではいたらなかったが、他の走化性因子添加や新たな流路設計を行うことで細胞の移動を自在に制御できれば新遺伝子導入法の可能性が示唆された。
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