研究課題/領域番号 |
15K12533
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
山田 博信 山形大学, 理工学研究科, 助教 (50400411)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | テラヘルツ波 / 中間水 |
研究実績の概要 |
テラヘルツ波を用いた生体高分子中の水和水分析のための測定システムを構築するための前段階として,反射あるいは透過による測定を想定して準光学系をそれぞれ構築し,試料を置かない状態での予備測定を行った。ここでは,テラヘルツ波源として信号発生器(FG,逓倍器含む)と後進波発振器(BWO)の2種類を,テラヘルツ波検出器として重水素化L-アラニンドープトリグリシン硫酸結晶(DLATGS)焦電素子とQuasi-Optical Detectorの2種類を,それぞれ用いた。反射による測定を想定した光学系では,発振器からのテラヘルツ波を軸外し放物面鏡を用いて平行光にし,これを平面鏡で反射させたのちに軸外し放物面鏡で集光し,検出器で測定した。この際,テラヘルツ波の損失低減を考慮して,できるだけ平行光が細くなるような放物面鏡の組み合わせの検討も行った。また,透過による測定を想定した光学系では,発振器から放射されるテラヘルツ波を4つの軸外し放物面鏡を用いて試料の想定設置場所と検出器設置場所に集光させ,検出器で測定した。結果として,200 GHz程度(FG)と760 GHz程度(BWO)のテラヘルツ波に対して,いずれの検出器を用いた場合においても測定可能であることが確認できた。また,6逓倍させたFG,反射による測定を想定した準光学系,DLATGS焦電素子を用いた測定系については,周波数を185 GHzから235 GHzの範囲で変化させた場合とFGの出力を変化させた場合のそれぞれについて,試料を置かない状態での検出器応答の予備的測定も行った。 以上のことから得られた知見は,本研究の目的であるテラヘルツ波を用いた生体高分子中の水和水分析のための測定システムを構築する上で不可欠なものであり,今後の研究を遂行する上で非常に意義のあるものであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初の計画においては,テラヘルツ波を用いた生体高分子中の水和水分析のための測定システムを構築し,実際に測定することでテラヘルツ波によって不凍水,自由水,中間水が判別可能かどうかを検証することについて,次の3つの課題を設定した。1つ目は,テラヘルツ波測定システムの構築で,具体的には,試料を冷却するためのパルス管冷凍機のチャンバーにテラヘルツ波を入出射するための窓をつける改造,減衰全反射法で使用するシリコンプリズムを取り付けたり試料にテラヘルツ波を透過させたりするための試料ホルダーの改造,テラヘルツ波源・レンズや放物面鏡・テラヘルツ波検出器・オプティカルチョッパー・ロックインアンプなどからなる測定システムの準光学系の構成などを挙げた。2つ目は,中間水を含む生体高分子材料の作製とした。3つ目は,構築したシステムと作製した生体高分子材料を用いて,中間水のテラヘルツ波測定を行うとした。 1つ目の3番目に挙げた測定システムの準光学系の構成については,研究実績の概要で述べたように予備的な測定を行って成果を得ることができた。しかしながら,それ以外の課題については,その後に生じた信号発生器(FG)の不具合のために研究を進めることができず,達成することができなかった。(FGは測定システムを構成していく上で不可欠なものであり,測定システムが構成されないとそれ以降の装置等の改造や実際の測定を行うことはできなかった。その後,不具合の原因がFGに組み合わせている逓倍器の故障であることが判明したが,原因の究明とその修理に3月末まで時間を要してしまった。期間延長の承認が得られているので,平成28年度に遅れを取り戻していきたい。)
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度はテラヘルツ波源の不具合が大きな障害となり当初の計画から大幅な遅れが生じてしまったが,この障害はすでに解消されたので,平成28年度は概ね当初の計画通りに進行していくことにする。 まず始めに,テラヘルツ波源・レンズや放物面鏡・テラヘルツ波検出器・オプティカルチョッパー・ロックインアンプなどからなる測定システムの準光学系を再構成し,最適化を行っていく。なお,当初はテラヘルツ波検出器としてゼロバイアスディテクターを購入して使用することにしていたが,テラヘルツ波源修理による予定外の出費があったため取りやめ,重水素化L-アラニンドープトリグリシン硫酸結晶焦電素子とQuasi-Optical Detectorの2種類を使用することにする。その後,試料を冷却するためのパルス管冷凍機のチャンバーにテラヘルツ波入出射用窓を付ける改造や試料を取り付けるためのホルダーの改造を行い,試料を冷却した状態での測定を行えるようにする。 テラヘルツ波測定システムの最適化および装置等の改造と並行して,中間水を含む生体高分子材料の準備を行う。試料は,中間水の有無や形状(面積および厚さ)が異なるものを用意し,測定に与える影響を調べることができるようにする。 以上のことが完了し次第,実際に生体高分子材料を測定し,テラヘルツ波によって不凍水,自由水,中間水が判別可能かどうかを検証する。水和水(中間水)の測定は,温度を一定にして周波数を変化させた場合,および,周波数を一定にして温度を変化させた場合の2通りについて行う。このとき,測定温度は-240℃~室温とし,測定周波数は120~160 GHz,180~240 GHz,700~830 GHzとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究を遂行する上で不可欠なテラヘルツ波源に不具合が生じたため,当初の研究計画の進行に大幅な遅れが生じてしまった。そのため,次の2つの事情により次年度使用額が生じた。1つ目は,購入品の変更を行ったことである。当初はテラヘルツ波検出器(ゼロバイアスディテクター,ZBD)を購入して使用する予定であったが,テラヘルツ波源の修理により予定外の出費が発生してしまった。そこで,ZBDの購入を取りやめて修理費用に充てることにしたが,これにより差額が生じる結果となった。2つ目は,研究計画で行う予定だった,試料を冷却するための冷凍機のチャンバーや試料を取り付けるためのホルダーの改造に着手することができなかったことである。改造やそれに関連する費用を使用しなかったので,残額が生じる結果となった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額の約83万円の使用予定は以下のとおりである。 まず,測定システムの準光学系を構成するための光学部品として10万円を計上する。次に,パルス管冷凍機のチャンバーにテラヘルツ波入出射用窓を付ける改造や試料を取り付けるホルダーの改造にかかる材料・加工費として30万円を計上する。それから,生体高分子材料準備費用として20万円を計上する。そして,研究成果の発表および情報収集のための旅費として12万円を計上する。内訳は,国内学会2回(2016年秋季応用物理学会(新潟県新潟市),2017年春季応用物理学会(神奈川県横浜市))を予定している。最後に,その他の費用として約11万円を計上する。内訳は,先に記述した国内学会の参加費(2回)や,成果発表のための論文の投稿料(1回)や校正費用(2回)などを予定している。なお,人件費・謝金については計上しない予定である。
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