研究課題
急性白血病(ALL)の治療薬であるL-アスパラギナーゼ(L-ASP)をPICsomeに封入し(L-ASP@PICsome)、血流中でL-アスパラギン(L-Asn)を分解し白血病細胞を栄養欠乏状態にすることで効果を発揮するナノリアクターを開発し、ALLの革新的治療法へと展開することを目的とした。当該年度は、まずL-ASP@PICsomeを調製し、基礎物性評価を行った。得られた粒子は、動的光散乱法および透過型電子顕微鏡観察より単分散で直径100 nmの中空粒子であること確認した。また蛍光標識したL-ASPを封入したPICsomeを用いて蛍光相関分光法より1粒子辺り約2個のL-ASPが封入されていることを明らかにした。さらに基質にL-Asp-AMCを用いて酵素活性の指標となるミカエリス-メンテン定数を算出したところ、PICsomeに封入した場合においても酵素単体と同等の酵素活性を有していることを明らかにした。上記のようにPICsome内に封入しても活性が維持されていることが明らかになったので、マウスを用いて血中安定性をin vivo共焦点顕微鏡を用いて評価した。その結果、L-ASP単体およびPEG-L-ASPの半減期がそれぞれ2.9、9.8時間だったのに対し、PICsomeに封入することで18.4時間とPEG化酵素と比べても2倍近く高い循環性を示すことが明らかになった。さらに当初の研究計画を前倒しし、血流中でのL-ASP@PICsomeの機能について、血中のアミノ酸濃度をLC/MSで評価したところ、標的とするL-Asn濃度がL-ASPと比べて有意に減少していることが明らかとなった。
1: 当初の計画以上に進展している
高分子の分子設計からin vitroおよびin vivoでの機能評価、さらには疾患動物モデルにおける治療効果の確認へと展開される本研究計画において、下記の特筆すべき成果を得ることに成功した。1) 酵素の活性を維持したままPICsome内に封入することに成功し、その基礎的な物性についても当初の計画通りの直径100 nmで単分散な中空粒子を作成することに成功した。2)L-ASP@PICsomeはL-ASPに対してのみでなく、血中半減期を高める目的で臨床でも使用されているPEG-L-ASPに対しても2倍近く高い血中循環性を示すとを明らかにした。3) 血流中において、標的とするアミノ酸を効率的に分解することに成功し、既存薬と比較しても高い有用性を示すことに成功した。以上のように、1年目の段階で当初の計画を前倒しして血流中で酵素封入PICsomeの機能を発揮することに成功している。
「現在までの達成度」に記述した様に、本研究は当初の計画以上に進展していると自己評価される。したがって、今後の研究については、当初の計画に前倒しで推進して行く予定である。具体的には、骨髄性白血病モデルマウスを購入し、白血病治療へと展開する。一般的に白血病では、血中の白血球数が通常より著しく増加し、赤血球数が減少することが知られている(モデルマウスにおいても同様の現象が報告されている)。そこで本研究では、まずL-ASP封入PICsomeをモデルマウスに投与し、経時的に採血を行い、血液中に含まれる血球数を多項目自動血球計数装置で確認する。コントロール実験として臨床でも使用されているL-ASP (製品名: ロイナーゼ、国内でも認可)とPEG-L-ASP (製品名: オンキャスパー、国内では非認証)と比較する。併せてLC/MSで対象となるアミン酸の定量評価を、生化学自動分析装置を用いて血中のアンモニア濃度について評価を行ない、L-ASP封入PICsomeが『血流中において効率よく機能するERT用キャリア』として高い優位性を有することを実証する。
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http://www.bmw.t.u-tokyo.ac.jp