研究課題/領域番号 |
15K12536
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
安楽 泰孝 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (60581585)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 薬剤送達システム / ナノリアクタ / 酵素 / 急性骨髄性白血病 |
研究実績の概要 |
ドラッグデリバリーシステム(DDS)を利用した酵素補充療法(ERT)は、先端医療としての革新的治療法として期待されているが、本来異物として認識される外来の治療用酵素を標的部位に運び、かつ効率良く酵素反応を起こすという一連のシステムを満足し得るナノリアクターが開発されていないのが現状である。最近申請者らが開発したポリイオンコンプレックス型ベシクル(PICsome)は血中循環性が高いのみでなく、物質の膜透過性に優れていることから『血流中における酵素・標的物質の反応場』として最適であると考えられる。本研究では、急性リンパ性白血病(ALL)の治療薬であるL-アスパラギナーゼをPICsomeに封入し、血流中で白血病細胞の栄養源であるL-アスパラギンを分解し栄養欠乏状態にすることで抗腫瘍効果を発揮するナノリアクターを開発し、ALLの革新的治療法へと展開していくことを目的としている。 当該年度は、前年度までに確立した急性白血病の化学治療薬として臨床でも使用されているL-ASPを封入したPICsome(L-ASP@PICsome)の詳細な物性評価およびin vivo実験を実施した。物性評価については、従来のベシクル研究では、封入物が内水相に存在するのか、膜中に存在するかを見分ける方法論がなかったが、我々はPICsomeの物質透過性を有するという特徴を活かし、封入物の存在する部分の粘度を変え、蛍光異方測定により酵素の局在箇所を世界に先駆けて同定することに成功した。また調製したL-ASP@PICsomeが標的とする血流中で長時間にわたって、標的アミノ酸を分解し続けることを見出した。これらの結果はALLのみならず痛風といった血液の疾患治療に対して、有力なツールになることが期待される。これらの成果を踏まえ、1報の学術論文および1件の特許を出願した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
直径100 nmほどで単分散なL-アスパラギナーゼを封入したPICsomeを構築し、実験動物を用いた検討で標的とするアミノ酸分子(アスパラギン)を血流中という厳しい流れ場環境下に置いて長期に渡って分解し続けるナノリアクタを構築することに世界に先駆けて成功した。血流中においてL-アスパラギナーゼを封入したPICsomeが長期間に渡って機能することは、患者のQOLを考えた上でも非常に意義深く、既存の薬剤の薬効を超えるドラッグデリバリーツールに発展することが期待できる。また確立した本システム(方法論)は、本研究で標的としている骨髄性白血病治療のみならず、封入する酵素の種類を変えるだけで、痛風など血液中に問題がある疾患に対しても有効であることが予想される。すなわちPICsomeが血液疾患を対象とするドラッグデリバリーシステムを利用した、汎用性の高い酵素補充療法用システムとして高いポテンシャルを有していることを見出すことに成功した。 上記の生物学的評価に加え、当初の研究計画を超えて、封入物(酵素)がベシクル内の内水相に局在していることを証明する、ナノ粒子の基礎物性評価に関する新たな方法論を見出すことに成功した。具体的には、ベシクル膜中、もしくは内水相に存在する酵素の運動性の違いを、蛍光標識した酵素を用いて蛍光異方性の違いとして測定することで、酵素が膜中ではなく内水相に存在することを実証した。本方法は、ベシクルに搭載した薬剤の局在箇所を明確にする方法論が皆無であったベシクル研究において、画期的な評価法であると考えられる。 このように当初の研究計画にあった「血流中で機能する酵素封入ナノリアクタの構築」に加え、「ベシクル内における酵素の局在箇所を同定する方法論の確立」といった物性評価に関する評価法を見出した点で、当初の計画以上に進展していると評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでにPICsomeの内水相に封入した酵素が血流中において、長期に渡って標的とするアミノ酸を分解することを明らかにしている。一方で、動物を用いた実験において、当初予想していた以上の結果が得られた ために、実験の再現性を確認する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画に則り、既に「血流中において機能するナノリアクター」を構築することに成功している。一方で動物を用いた実験において、当初予想していた以上の結果が得られたために、実験の再現性を確認する必要が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
モデル動物を準備し再実験を実施する。さらに得られた成果を論文投稿、学会報告する。
|