本研究は、未だ十分に明らかにされていない、細胞内部の温度測定による細胞内生命活動の熱力学的解明を目指す、極めて価値が高く挑戦的な研究課題である。具体的には、単一細胞内部の温度を、ナノスケールの解像度で測定可能な温度応答性蛍光有機ナノ結晶(温感性蛍光ナノプローブ)の研究開発を行い、細胞内に導入し、共焦点レーザー蛍光顕微鏡を用いて、単一細胞内部の細胞小器官の熱力学的解析を行う。本年度の知見は以下である。温感性蛍光ナノプローブの作製は、蛍光ナノ結晶の表面を温度応答性ポリマーで被覆し、かつ、有機ナノ結晶が水中にコロイド状態できれいに分散された有機ナノ結晶水分散系の構築を得ることにある。主にボトムアップ法(沈澱法)を作製手段として用いる。しかしながら、有機ナノ結晶水分散液の作製を試みた場合、水中でナノ結晶の結晶サイズ成長が生じ凝集沈殿を生じる系が多数あることが判明し、同時にナノ結晶の結晶成長を抑制することが困難な状況に直面した。有機ナノ結晶と温度応答性ポリマー群との相性を検証したが、有機ナノ結晶の結晶成長を抑制することが難しいことが分かった。温感性蛍光ナノプローブの開発には、1.水場のような極性場では蛍光しないが、温度温感性ポリマーで囲まれた疎水場では蛍光するような蛍光色素を対象とし、2.且つその有機化合物のナノ結晶化が可能であり、またそのナノ結晶が水中で良質な分散系を取り、3.温度応答性ポリマーで被覆されることでナノ結晶の結晶成長が抑制されるという一連の作製上のハードルを越えなければならないことが分かってきた。これらの条件を満たすことは容易ではなく、これらの条件を満たした温感性蛍光ナノプローブでなければイメージングには適していないと考える。得られた知見を基に今後の研究開発に用いていく方向である。
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