ペプチドの固定に寄与すると考えられるシルクフィブロインフィルム表面近傍の構造を調べるため、ラマン顕微分光装置によるスペクトル測定を行った。得られたスペクトルより、未処理フィルムに比べ、アルコール処理、50oCでの加熱処理の組み合わせに応じて、シルクフィブロイン表面上の構造割合が変化する結果が得られた。またマッピング画像により同じフィルム内における構造の分布の存在が示唆された。これらの結果より、接着配列;(GAGAGS)nを有するペプチドはシルクフィブロインフィルム表面のβシートの存在部分に固定化されると考えられる。 続いて接着配列とRGD配列を有する蛍光ラベルペプチドを用い、固定化条件検討を行った。βシート含有率の異なるシルクフィブロインフィルムへの蛍光ラベルペプチドの固定化量を実測した結果、シルクフィブロインへの接着配列を有するペプチドでより高い固定化量が認められた。また、その固定化量は細胞接着に必要とされる単位面積当たりの密度を大きく上回る量であった。この固定化フィルムのin vitro機能性評価として、マウス繊維芽細胞を用いた接着性試験を行った結果、ペプチド固定化量と接着細胞数に相関は認められなかったものの、固定化量が多かったフィルム上で顕著な細胞の伸展が見られ、接着配列を介して表面上に固定化されたRGDペプチドの寄与が示唆された。 これらの特異的接着、機能発現の結果をふまえ、「接着配列・MMP応答酵素切断配列・創傷治癒促進配列」から構成される機能性配列ハイブリットペプチドのシルクフィブロインフィルムへの固定化・MMP応答性を評価した。得られた結果より、MMPに応答したフィルムからのペプチドの徐放が示唆される結果を得た。
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