研究実績の概要 |
本研究では、申請者らが見出した新規の膜作用性ペプチドをpH応答性の低分子抗体と組み合わせることで、膜非透過性のバイオ医薬を細胞選択的に膜透過させる新たな技術を開発することを目的としている。 これまでに、一本鎖抗体の効率的な試験管内選択を可能とするPURE mRNAディスプレイ法(J. Biochem. 印刷中)を新たに確立し、この手法を用いて、一本鎖抗体遺伝子のCDRにヒスチジン残基を多めに導入したランダム変異体ライブラリーを作成し、細胞外環境と同じpH7.4で膜抗原に結合し、エンドソーム内環境と同じpH6.0で膜抗原から解離するpH応答性の一本鎖抗体の試験管内進化をおこなった。その結果、pHの違いによって抗原に対する結合力が変化する一本鎖抗体の変異体を取得することに成功した(未発表)。 また、申請者らが昨年までに見い出していたシス型およびトランス型の膜透過促進ペプチドB18およびB55(J. Control. Release, 212, 85-93, 2015)はウニ由来であったため、バイオ医薬に適用するには免疫原性の懸念があった。そこで、新たにヒト由来の膜透過促進ペプチドを探索し、エンドソーム離脱を促進するヒト由来のペプチド配列を世界で初めて同定することに成功した(特許出願、論文投稿中)。 さらに、これらの膜透過促進ペプチド融合タンパク質の膜透過性を迅速かつ正確に評価するために、核移行シグナル配列(NLS)の利用について検討した。従来の方法では、エンドソーム内のタンパク質と細胞質のタンパク質を区別して定量することは困難であったが、NLSを融合することで細胞質に移行したタンパク質のみが核に輸送されるため、分画により核画分を抽出し、タンパク質を定量することで、それらの膜透過性を定量的に評価することができた(J. Biochem. 159, 123-132, 2016)。
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