今年度は主に以下の3点の研究課題を取り組んだ 1.移流集積法を用いてポリスチレンビーズを直径4mmの銅板メッシュ内にほぼ規則的に集積させる手法を確立した。その後さらに無電解金属電鋳とビーズの溶解除去を施すことで、多細胞型人工脂質膜の支持体となる球殻構造体を得た。本法で得られる構造体は区画されているため、従来の一様に充填された球殻構造体に比べ人工膜の観察・操作において利点を持つ。また階層的な生体組織を模倣したモデルとなり得る構造である。本構造対に対してペンティング法を用いることで部分的に脂質二重膜が形成されていることが示唆された。 2.多細胞型脂質膜を作製するために従来のリポソーム作製方法を改良した。まず、導電性基板(ITO膜)上にPDMSスタンプを用いて脂質膜パターンを作製した後にエレクトロフォーメーション法(EF法)にて多細胞型ベシクルを作製した。生成したベシクルの多くは基板から遊離しないために倒立顕微鏡での観察が容易であり、グラミシジン導入膜のイオン透過現象の蛍光顕微観察などにも成功した。この手法を1.で得られた球殻構造体に適用することで機械的強度に富んだ人工脂質膜を作製することが可能になると考えている。 3.人工脂質膜への膜タンパク質導入に資する脂質ナノディスクの作製方法を検討した。従来用いられている膜骨格タンパク質よりも調製の容易な20量体程度のペプチドでのナノディスクの形成をQCM・DLS等で追跡し、最適なアミノ酸配列や二次構造について知見を得た。
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