本邦に於いて肝硬変・肝不全により死亡する患者は年間2万人以上にのぼる。現在の医療では肝硬変・肝不全に対する有効な治療方法は肝移植のみである。しかし、本邦において肝移植の機会は非常に限られているため、再生医療による治療法の開発が強く求められている。再生医療研究においては、その基盤となる幹細胞の収集とバンキング、ならびに幹細胞から肝細胞への分化誘導方法の開発が重要な課題である。我々は、帝王切開時に廃棄される胎盤組織に着目した。その理由は、胎盤組織から採取される羊膜幹細胞は、ES細胞と近い性質を持ちまた自然に肝細胞に分化する傾向をもつことが知られており、肝不全治療に向けた臨床応用が期待されている。しかしその性質には未だ不明な点が多く、また胎盤提供者の情報とリンクした形での細胞バンクは存在しない。そのため、幹細胞の分化能と機能と安全性の問題が解決せず臨床応用は進んでいなかった。 我々は筑波大学附属病院で採取した胎盤由来体性幹細胞の単離と保存の安定化、ならびに細胞のバンキングを試みた。さらに分離した羊膜幹細胞の性質と、この羊膜幹細胞から肝実質細胞への分化を目的とした新規3次元培養条件を詳細に検討した。 結果として、現在までで54症例の生体情報とリンクした羊膜幹細胞を胎盤から分離し、バンキングを行った。さらに羊膜幹細胞を特殊な3次元プレート上で培養し、人工的な細胞塊、スフェロイドを形成させると未文化性を保ちながら肝オルガノイド(臓器原基)としての遺伝子発現が上昇することを確認した。加えて、他の胎盤由来体性幹細胞と共培養することで、より肝に近い性質を保持できることを発見した。 本研究においてバンキングした羊膜幹細胞を用いて幹細胞共培養条件を最適化し、ヒトへの移植に応用可能な肝臓器原基を作製することにより、今後は肝不全治療へ大きく貢献するものと期待される。
|