人工関節置換術においては,主に金属製の量産人工関節が用いられることから,材料の剛性差に起因する残存骨の劣化(応力遮蔽と呼ばれる) に代表される,患者との適合性の問題がある.本研究ではこの問題の解決法として,金属人工関節を多孔質化し,金属人工関節の見かけ剛性(実効的剛性) を低下させ残存骨と親和させる,新しいカスタムメイド人工関節について研究を行った.内部多孔質構造は数値計算手法を用いて最適設計し,得られた複雑な内部構造の造形には,極めて自由度の高い製造手法である金属3D プリンタを用いた. 最も自由度の高い構造最適化法であるトポロジー最適化を用いて,人工関節内部多孔質構造を最適化可能なアルゴリズムを構築し,必要な剛性を最小の材料体積・重量で得るという最適設計を実施した結果,シミュレーションの段階で,理論的最大値の約85%の剛性が得られた.そして,得られた最適解を金属3Dプリンタで造形し,圧縮試験による剛性評価を行ったところ,シミュレーションとの誤差が約10%以下となった.この結果より,内部多孔質構造による剛性の設計が十分に可能であることを検証した. また,試験片に対し圧縮破壊試験を実施したところ,設計の対象外ではあったが,通常の多孔質材料に比べ,約140%高い強度が得られた.すなわち,金属3Dプリンタで造形された,規則的な多孔質金属材料は,低剛性高強度であり,人工関節には理想的な物性値となることがわかった. しかし,この高強度という副次的な利点に対して,本研究内で更なる検討を行ったものの,強度の定量的解析及び最適設計は現状では難しかった.今後更なる厳密な人工関節の設計を行うには,これらの課題の解決が必要であると考える.
|