研究課題/領域番号 |
15K12563
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研究機関 | 香川高等専門学校 |
研究代表者 |
石井 耕平 香川高等専門学校, 機械電子工学科, 助教 (40710653)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 付け爪 / 脈波 / ウェアラブルセンサ / 在宅医療 / 遠隔モニタリング |
研究実績の概要 |
終末期の療養場所について60%以上の国民が自宅を希望している。また65歳以上の高齢者数は2060年には約40%と予想されている。この様な将来を見据えると、在宅療養患者の急変にいち早く気づくことのできる遠隔モニタリングシステムの重要性は言うまでも無い。 本研究では在宅医療における遠隔モニタリング用ウェアラブルデバイスとして、付け爪型脈波計を開発している。付け爪型脈波計の利点は次の三点である。爪には汗腺、感覚神経がないことから、計測装置の装着に伴う不快な装着感がない。付け爪の要領で爪に固定することにより数週間にわたる強固な固定を確保できる。人体には20枚の爪があることから、複数のデバイスを異なる爪に取り付けることで、多点同時計測が可能である。 すでに商品化されているウェアラブルデバイスとしてワイヤレス心電計が挙げられる。ケーブルフリーで心電図を取得できるが皮膚への電極貼り付けが必須であり長期間使用した場合、装着による違和感が避けられない。また入浴時はセンサーの着脱が必要であり装着失敗や脱落のリスクがつきまとう。その他にも指輪、腕時計、鬘、コンタクトレンズなどを応用した様々なウェアラブルデバイスが開発されているが、付け爪型とした場合のように、長期間、安全に不快な装着感を感じることなく計測を行うことは困難である。 本デバイスが実現されれば不快な装着感の無い遠隔モニタリングデバイスが実現でき、在宅医療の向上に寄与することができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.小型光電脈波計測回路の開発:爪に装着可能な大きさの反射型光電脈波計を開発した。計測回路はLEDから照射された光の反射光をフォトダイオードにて検出,フィルタおよび増幅回路を経て出力する。計測回路の大きさは11×11mmである。実験より十分な精度で脈波を計測することができた。消費電力は30mWであり、99.6%がLEDの消費電力であった。 2.脈波計測回路の消費電力削減:開発した脈波計測回路の消費電力は30mWであり、小型のボタン電池を用いた場合、連続使用時間は数分程度となる。今後、開発する無線通信システムにも電力が必要となることから、現時点で脈波計測回路の省電力化が必須であった。そこで、LEDをPWM駆動し点滅させ、消費電力を低減することとした。Duty比を0.01とした場合でも脈波を観測することができた。これにより消費電力を1/100の300μWまで削減することができた。 3.生活環境下での24時間脈波計測: 爪に光電脈波計測回路を装着した場合、指の曲げ伸ばしや物体との接触、体の動きに伴う血流変化が外乱となり、脈波計測が妨げられることが課題である。そこで、爪に開発した小型脈波計測回路を爪に固定し、24時間の連続脈波計測を行い、外乱の影響を検討した。実験中は入浴、睡眠、食事を含む普段通りの生活を送ることとした。実験結果より活動時間帯は、外乱の影響が強かったが、心拍数の日内変動を確認することができた。外乱除去手法の開発も今後の課題と言える。 4.無線通信システムの開発:Bluetoothモジュールの選定および開発環境構築を行った。
研究を進める中で脈波計測回路の消費電力が大きいこと、外乱の影響が強いことが明らかとなり、上記2,3についての実験が必要となった。これにより上記4に示す無線通信システムの開発についてはICの選定および開発環境の構築までに留まった。
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今後の研究の推進方策 |
H27年度の研究終了時点での研究計画は、H27 測定原理の確立、H28 無線通信回路の確立、測定機能、無線通信機能を備えたプロトタイプの開発、H29 付け爪サイズの実証モデルの開発及び爪への固定方法の確立であった。ところが研究を進める中で脈波計測回路の消費電力が大きいこと、外乱の影響が強いことが明らかとなった。消費電力については、付け爪サイズに組み込み可能な小型ボタン電池で駆動可能な消費電力とすることが必須であり、優先的に省電力化の技術開発を行った。また、外乱についても早期に検証し、付け爪型デバイスにより心拍数の取得が可能である裏付けが必要であることから実証実験段階で実施予定であった生活環境下での長時間実験を前倒して実施した。この影響で無線通信回路の開発が遅れている状況である。 H29年度は無線通信回路の開発を優先的に行う。すでに無線通信回路に使用するBluetoothモジュールの選定及び開発環境の構築を終え開発に取り掛かれる状況である。よって年度内には無線システムの開発および、計測回路、無線通信回路、電池により構成される付け爪型脈波計の実証実験用プロトタイプを開発、実証実験を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
H28年度は無線通信回路の開発を予定であったが計画を変更し、省電力化に関する実験を実施した。また、生活環境下における長時間脈波計測についても当初の計画から前倒して実施した。これらの実験はH27年に開発した回路および研究室備え付けの装置も用いることにより実施可能であったことが次年度使用額の生じた理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
H29年度は上述の省電力化および生活環境下での長時間計測を実施したことにより、実施が遅れている無線回路の開発を中心に研究を行う。無線通信回路には超小型Bluetoothモジュールを用いる予定であり基盤製作や実装を研究室で行うことができない。これにより必要となる専門業者への外注に次年度使使用額を使用する見込みである。
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