シナプスを形成している2つのニューロンに対して、シナプス前ニューロンの発火に続いてある時間遅れでシナプス後ニューロンを発火させる事を繰り返すと、遅れ時間によって、このシナプスの信号伝達の結合強度が強化されたり、逆に抑制されたりするという、シナプス可塑性の法則が知られているが、本研究は感覚神経系において、このシナプスの可塑現象を利用し、大脳皮質感覚野における体部位局在地図を書き換えようとするものである。 平成27年度は、シナプス前細胞の神経活動を検出し、一定の遅れ時間でシナプス後細胞に電流刺激の呈示を行う埋込型デバイスの開発を行い、これを用いて2つの大脳皮質のニューロン間における同期刺激を一定期間繰り返し、両者間の接続強度の変化を検討した結果、5 ms の遅れ時間で同期刺激を続けると、両神経細胞間での高ガンマ帯信号の伝播効率が強化されることが示唆された。このシナプスの可塑性は運動神経系では確認されているが、運動神経系と感覚神経系は遠心性と求心性の違いがあり、求心性の感覚系では大脳皮質間の同期発火では結合強度の変化が生じない可能性も考えられる事から、平成28年度は、大脳皮質感覚野と共に、深部(基底核・視床下核など)においても電極を装着し、大脳皮質と同様の実験を行うとともに、ラットを用いた自覚的な感覚生起部位の変換確認を行う実験を試みた。前者に関しては、ラットにレバー押しを行わせ、深部の視床下核や基底核などから得られた信号を時間遅れをもって運動皮質にフィードバックし刺激を行うというループ、また、同じくラットにトレッドミルを走らせて、走っている間だけ深部で求心性線維を微小電気刺激するというループを作成し、一定期間これを作動させた結果、結合強度の強化が得られたが、最終的な目標である後者に関しては、今回の研究期間においては結果を出す事が出来ておらず、今後、この実験系に注力する予定である。
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