研究課題/領域番号 |
15K12580
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
亀高 諭 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 教授 (10303950)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 骨格筋 / 筋分化 / C2C12 / 遺伝子スクリーニング |
研究実績の概要 |
骨格筋は日常的な生活やスポーツ、労働など様々な局面で物理的な傷害を受ける。骨格筋細胞の傷害により、筋組織中に存在する筋衛星細胞が活性化し、筋分化を開始する。筋衛星細胞から派生した筋芽細胞は骨格筋の傷害部に向かって遊走するとともに、筋芽細胞同士あるいは筋菅細胞との細胞融合を経て、多核の巨大な筋菅細胞へと変化し、最終的に筋細胞を修復することが知られている。このように骨格筋の傷害からの回復過程は多くの生物学的プロセスを含む複雑な過程であり、その分子機構の詳細は未だ不明な点を多く残している。 これまでに我々のグループは、培養筋芽細胞株C2C12およびニワトリ胚由来初代培養筋芽細胞を用いた試験管内骨格筋分化系を用いて筋分化に関わる遺伝子のスクリーニングとそれらの機能解析を行ってきた。本研究においては過去のスクリーニングで見出されてきたGGA1に焦点を絞り、GGA1の筋菅形成過程における分子機能に関する解析を行った。GGA1はゴルジ体およびエンドソームにおいてクラスリン被覆小胞の形成に関わるタンパク質であり、近年は様々な生物種において分泌経路において重要な役割を担っていることが報告されている。培養条件の変化により容易に骨格筋分化を開始できるマウス筋芽細胞C2C12細胞を用い、GGA1の発現を調べたところ、骨格筋分化に伴いその発現が上昇することが分かった。次に、GGA1をRNAi法により発現抑制したところ、筋菅細胞への分化が顕著に低下したが、骨格筋の成熟に伴い発現が誘導される一群の転写因子(MyoD, Myogeninなど)の発現には影響がなかったことから、GGA1の欠失により筋分化過程に必要な何らかの分子の細胞内輸送に影響があったことが示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究により、ゴルジ体で細胞内タンパク質輸送に関わる因子として知られているクラスリンアダプター分子、GGA1, GGA3が筋芽細胞からの筋菅形成過程に重要な役割を持つことを明らかにした。ゴルジ体ーエンドソームで機能するクラスリンアダプターはGGA1-3およびAP1複合体が知られているが、これらの分子群が骨格筋で重要な機能を担っているという報告はこれまでになく、また類縁分子である3つのGGA分子のうち、機能的に近いことが示唆されているGGA1,3が骨格筋分化に関わる一方で GGA2のノックダウンは影響がなかったことは、別の論文に示された、GGA2とGGA1, 3の二つのグループが受容体型チロシンキナーゼの細胞内輸送において相反する機能を持つという報告とも合致することから、GGA1の欠失によるC2C12細胞の表現型はなんらかのタンパク質の細胞内輸送に異常が起こったことに起因すると考えられる。また、筋芽細胞の融合により生じる多核の筋菅細胞のプロファイリングにより、GGA1の欠失が筋芽細胞の細胞融合プロセスに影響していることが示唆された。これまで筋芽細胞の細胞間の融合現象に関わる分子について、その細胞内輸送の経路や調節機構の詳細はほとんど分かっておらず、これらの過程にGGAクラスリンアダプターが機能しているという我々の得た新しい知見は、細胞融合に関わる分子メカニズムの理解に大きく貢献できると考えられるため。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの培養細胞系を用いたアプローチに加え、本プロジェクトの最大の特徴の一つである動物個体を用いた遺伝子機能解析に着手する。具体的には、GGA1の野生型遺伝子およびVHS-GATドメインと呼ばれるN末側のドメインのみを持つタンパク質をマウス骨格筋(腓腹筋、ヒラメ筋および前脛骨筋)にエレクトロポレーション方で導入し、内在性GGA1分子機能のブロックを試みる。同時にGGA1をターゲットとしたshRNAベクターを作成し、正常、およびカルディオトキシン投与により傷害させたマウス骨格筋への導入を行い、GGA1の機能が生体における傷害筋の回復過程にどの程度重要かを調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
論文投稿準備費用として前倒し支払い請求を行ったが、査読により追加実験を求められたため、掲載に至っていないため。
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次年度使用額の使用計画 |
全体の計画に大きな変更はない。次年度使用額分は計画通り研究試薬費などに用いる。
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