筋芽細胞融合は、発生中の筋肉の成長と損傷時の筋線維の再生に寄与する、きわめて重要な過程である。本研究においては培養筋芽細胞株C2C12細胞を用いて、蛍光タンパク質を用いた簡便かつ感度の高い細胞融合検出系を構築し、骨格筋分化に関わる遺伝子および分化に影響を与える分子の探索を行った。 細胞膜表面で機能する細胞融合分子の局在化に関わる因子を明らかにすることに焦点を当て、細胞内小胞輸送系分子のRNAiスクリーニングを行った。その結果、細胞内小胞輸送に関わるGGA1およびGGA3 クラスリンアダプター分子をノックダウンすることで筋分化が阻害されることが明らかになった。GGA1はその発現が筋分化刺激により誘導されること、インスリン依存的なブドウ糖の取り込み能が顕著に低下することが明らかとなった。さらに、GGA1ノックダウンによりインスリン受容体の細胞膜表面での発現が低下すること、インスリンによる細胞内シグナル分子Aktのリン酸化が低下することが示された。 また、細胞内小胞輸送を阻害することが報告されている低分子化合物に関して探索を行い、筋分化に影響を与える幾つかの候補分子を同定した。その中のある分子は可逆的にC2C12の細胞融合を阻害し、細胞膜融合現象を阻害する効果が形態学的に観察された。この分子の作用機序を明らかにし、阻害中の細胞膜表面に蓄積する分子を生化学的に探索することで、さらに融合分子機構の本体を明らかにできると考えられる。
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