研究課題/領域番号 |
15K12586
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研究機関 | 埼玉県立大学 |
研究代表者 |
小川 豊太 (濱口豊太) 埼玉県立大学, 保健医療福祉学部, 教授 (80296186)
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研究分担者 |
田山 淳 長崎大学, 教育学部, 准教授 (10468324)
原 元彦 埼玉県立大学, 保健医療福祉学部, 教授 (30386007)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 過敏性腸症候群 / ストレス / 運動介入 / 消化器 / 運動誘発電位 / リハビリテーション |
研究実績の概要 |
機能的消化管障害である過敏性腸症候群(IBS)は脳腸相関の異常が中心病態であり,罹患者には日常生活に障害をもたらす.運動によって生活リズムを保ち,生活習慣改善をはかると軽症のIBSは改善する(Jarrett ME,2009).しかし,IBSには内臓知覚過敏の他に体性知覚過敏があり,骨格筋持続伸張の運動でも爽快感が得られにくい(Shimizu K,2010).本研究はIBS有症状者が反復的骨格筋運動中およびその前後に体性知覚の感作現象と脱感作現象が生じる機序を電気生理学的に検証し,IBSへの運動介入基準を作成する. 平成27年度はIBSにみられる運動時の体性知覚過敏について,経頭蓋磁気刺激装置を用いて運動誘発電位(MEP)を測定し,大脳皮質の神経興奮を解析した.対象は成人のIBS有症状者18人,無症状者10人.IBS症状はRome Ⅲ診断基準に基づいて医師が診断した.説明と同意の後,実験は2パートに分けた.Part1は被験者の多種感覚運動に対する運動誘発電位と心理ストレス実験を行った.安静時MEPを右第一骨間筋から導出し,多種感覚運動(腹部体幹筋,下肢筋,上肢筋を自動的持続伸張)の前後に測定した.心理ストレス検査は暗算ストレスによる心臓自律神経反応を指尖脈波で測定し,さらに唾液中αアミラーゼ活性を測定した.実験Part2では被験者に4週間の運動介入を行い,その後の変化を再調査した. 一次解析としてIBS有症状者と無症状者との比較をしたところ,IBS有症状者の消化器症状は無症状者よりも有意に悪く,症状による群分けは成功していた.安静時MEP振幅はIBS無症状者のほうが無症状者よりも値のばらつきが大きい傾向があった.IBS有症状者をMEP振幅の高群と低群にわけて4週間の運動介入後に消化器症状を比較したところ,MEP振幅が低群は消化器症状が改善する傾向があった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の被験者は成人男女でIBS有症状者と無症状者を各20名募集した.対象人数は2 群のサンプル数比1においてMEPとSEPのamplitude及び潜時の値から有意水準5%,検出力80-90%で臨床的有意差を仮定してそれぞれ17人と算出し,2-3割の脱落者を見込み各20人,計40人とした.平成27年度は有症状者16人,無症状者10人をリクルートできた. MEP計測には経頭蓋磁気刺激装置(Magpro X)と8 の字コイルを用い,安静時と反復運動中に右一次運動野領域を刺激する計画であった.しかし,被験者を運動させると刺激用コイルが刺激部位からずれることが多かった.また,MEP は臍左部の腹直筋より導出することを計画していたが,MEP検出が安定しなかったため,第一骨間筋から導出することに変更した. 実験Part2で得られたMEP振幅の違いによってIBSの消化器症状に対する運動効果の効き方が異なる現象については真偽を慎重に確かめる必要がある.大脳運動野の興奮性が異なることが,消化器症状に影響を及ぼす機序は明らかでない.また,MEPの性差等,不明な点があり,更なる検証が必要である.実験は概ね計画通りに進んでいると判断している.
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度はIBSの先行刺激の強度と頻度によって生じる体性感覚の感作・脱感作現象を検証する予定である.感作と脱感作の発生機序は先行刺激の強度と頻度が素因となっている可能性が高い.我々の直近のデータでも,消化管刺激への先行刺激の有無, 刺激に対する病的警戒と選択的注意により脳活動が変容し, 内臓知覚過敏に関わる神経基盤の活動が特徴付けられている(Hamaguchi T, 2013).一方,脱感作は長期間の刺激暴露によって生じる.特に,平成27年度の一次解析より,MEP振幅の高低によってIBSの消化器症状の変化が異なり,MEP振幅が低いIBSでは症状が減弱する傾向があった.この現象の真偽についてはMEP測定をさらに継続し,性差等,詳細な分析を行う.一次解析のための被験者は残り10名程度を予定する. 二次解析としてIBSに運動させたとき,短時間の運動でも過敏性が減弱するかについて感作現象の点から解析することを予定している.また,IBSに運動を14日間練習させた後にMEPを再解析し,脱感作が生じているという仮説を検証する.三次解析は平成29年度より開始することを予定しているが,運動練習前と練習後の検証結果に対し,変数として運動部位,反復運動回数,被験者の性・BMI・運動習慣を従属変数として寄与率を求め,運動指針の参考値となる運動部位と回数,頻度を導き出す.消化管知覚は今回の実験では質問紙調査としている.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額があるのは平成27年度にストレス課題の刺激装置として購入したアプリケーションが安価であったことによる.
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次年度使用額の使用計画 |
当使用額については実験を円滑に行うために平成28年度の被験者謝金ならびに消耗品費,追加アプリケーション購入費として使用する予定である.
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