前年度、脊髄損傷モデルを作成し、メカニカルストレスシグナルであるCasのリン酸化の変化を評価したところ、損傷周囲のミクログリアにおいて強くCasのリン酸化を認めていた。そこでミクログリアのCasの機能を評価するために、Tie2-Creマウスを用いて、Hematopoietic and endothelial cell特異的Cas欠損マウスを作製した。このCas欠損マウスを用いた結果、一定のフェノタイプは得られた。しかし、ミクログリアに比べて発現レベルは低いが内皮細胞にもCasが発現していること、Cas発現低下細胞では増殖が低下することからCas欠損内皮細胞では血管新生機能に異常が認められる可能性が考えられること、血管新生の促進が脊髄損傷治療のメカニズムの1つであることから、ミクログリアと内皮細胞の寄与を切り分けることが困難と考えられたことから、本マウスを用いたさらに詳細な評価を断念した。 一方、組織中マクロファージの検討の一環として、内臓脂肪組織の1種である精巣上体脂肪組織での検討により、高脂肪食負荷に伴うマクロファージの蓄積がCasの欠損により低下することが明らかになった。このことからも、神経組織における組織中マクロファージに相当するミクログリアにおいてもCasが機能することが示唆された。 また、細胞を用いた検討により、CasをノックダウンしたRAW264.7細胞では、極性が炎症性のM1に傾くことが明らかとなった。 以上のことから、脊髄組織においてCasはミクログリアに豊富に発現し、損傷時に炎症反応を調節している可能性が示唆された。
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