研究課題/領域番号 |
15K12592
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
李 鍾昊 公益財団法人東京都医学総合研究所, 運動・感覚システム研究分野, 主席研究員 (40425682)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | リハビリテーション医学 / 予測制御とフィードバック制御 |
研究実績の概要 |
本研究では、上肢の片麻痺を伴う脳卒中患者に対する脳内の病態や様々な治療効果を運動制御の予測とフィードバックの観点からわかりやすく評価できる「脳卒中治療ナビゲーターシステム」の構築を目的とする。特に最近パーキンソン病の病態分析に有効であった3Hz以上の不随意運動領域(振戦領域)をもう一つの制御領域として加え、3つの制御要素に基づいて脳卒中患者の様々な治療やリハビリテーションにおける病態変化をより有効に評価できることを国内や海外で認められ、初年度である27年度に3件の特許を出願した(日本国特許:特願2015-514865、US特許:14/787,411、EP特許:14792013.6)。このように国内及び海外で「脳卒中リハビリ補助システム」として認めてもらった手首運動機能評価システムを協力病院(東海大学病院リハビリテーション学と順心リハビリテーション病院、原宿リハビリテーション病院)に普及し、これまで26名の脳卒中患者の手首運動(指標追跡運動)を記録した。そして、そのうち11名の脳卒中患者に対しては3ヶ月の回復過程を追跡評価し、損傷部位による回復パターンの違いを分析した。特にこれまでパーキンソン病や小脳疾患の病態分析から同定した3つの制御要素(予測制御とフィードバック制御、不随意運動要素)が、脳卒中患者に対して損傷部位による回復パターンの違いを運動制御観点から十分に説明できることが明らかになり、その研究内容を国際学会(neuro2015)や国内会議(第3回身体性システム領域全体会議)に報告した。さらに、脳卒中患者の治療や回復過程の評価において年齢の影響を調べる基礎研究を行い、加齢と伴いFeedforward的な制御の精度が落ちていることが明らかになり、その研究内容を論文詩に投稿し、現在major revision中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度である27年度には、予測制御とフィードバック制御に基づいて脳卒中患者の普段のリハビリに対する3ヶ月間の回復過程を追跡し、「脳卒中治療データベース」に必要な症例を集めている。これまで研究の協力病院である順心リハビリテーション病院と原宿リハビリテーション病院、東海大学医学部付属病院の入院患者の協力を得て、26名の脳卒中患者から手首関節による指標追跡運動を行い、異なる周波数領域から予測制御とフィードバック制御の成分を分離して分析し、「脳卒中リハビリ補助システム」のデータベースとして活用している。特に指標追跡運動における2つの並列制御器(予測制御とフィードバック制御)に基づいた分析は小脳や大脳皮質関連の脳卒中患者の評価には適切であったが、大脳基底核が主に損傷される患者さんにはこの2つの並列制御器だけでは病態の特徴がはっきり抽出できなかったが、さらに3Hz以上の不随意運動領域(振戦領域)をもう一つの制御領域として分析に加え、3次元の運動制御マーカーに基づいて脳卒中患者の損傷部位による回復パターンの違いをより高精度で評価できるようになった。また、単純なストレッチの効果から最新の治療法である反復性経頭蓋磁気刺激(rTMS)療法など、脳卒中患者に対する様々な治療効果を3つの制御要素(予測制御とフィードバック制御、不随意運動領域)に基づいて評価する研究を順心リハビリテーション病院と東海大学医学部付属病院で進めている。特に脳卒中患者に対する治療やリハビリの効果が発症年齢に応じて大分異なる傾向が見えたので、治療や回復過程における年齢の影響を調べる研究も同時に進めている。そして、最近高齢者と若者に対する運動制御能力の差を評価できる新しいパラメータを同定でき、そのパラメータに基づいて20年齢代から70年齢代までの運動制御能力の変化を調べた研究内容を論文投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
今後脳卒中の各損傷部位に対する回復過程や様々なリハビリテーション効果を2つの並列制御器(予測制御器とフィードバック制御器)に基づいて追跡し、「脳卒中治療データベース」に必要な症例をより増やす予定である。特に今後なるべく多くの患者からデータを取得する必要があり、連携先のスタッフにデータ取得を委任することが必須となる。そのため、2年目である28年度には連携先の病院スタッフが独自にデータを取得できるように指導する予定であり、定期的に連携医療機関を訪問し、スタッフの技量と記録システムのチェックを行う。さらに記録した患者データに対する分析プログラムも加え、連携先の病院スタッフが自らデータの記録や分析もできる体制を備えるようにする。また、これまで手首関節による指標追跡運動を行う際、その際記録した筋電信号と動き情報の異なる周波数領域から予測制御とフィードバック制御の成分を分離して分析してきたが、最近は動き情報だけからこの2つの制御器を評価できる方法が確立できた。特に筋電信号を記録するには、電極の設置や正規化のための実験などが被験者や実験者の両方とも負担になっていたが、これから動きのみの記録にすることにより実験時間が半分になるので、より多くの患者からデータ記録ができると期待される。しかし、ストレッチの効果から反復性経頭蓋磁気刺激(rTMS)療法など、脳卒中患者に対する治療効果を調べる研究には、これまで調べた前腕の4つの筋肉(ECR, ECU, FCU, FCR)だけではなく、上腕の筋肉(biceps, triceps)の活動も記録し、各治療効果が共同運動から分離運動への回復過程にどのような影響を与えたのかも調べる研究を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度である27年の年度末に予定した連携病院への出張が出張先の連携研究者の都合により来年度に延期されたため、少額の研究費が残額として残ることになった。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究は協力病院である順心リハビリテーション病院と原宿リハビリテーション病院、東海大学医学部付属病院の入院患者の協力を得て行われる連携研究であり、より多くの患者さんから随時記録を連携先の病院スタッフが独自にできるように各病院内の検査室に記録システムを常備する必要がある。特に本研究で行われる手首運動の実験タスクはNational Instruments社のLabVIEWという開発環境から実行されるので、28年度の研究費を使って実験用のパソコン1台やLabVIEWプログラム、データ収集用のボード(NI PCIe-6320)を購入する予定であり、大量な患者データを保存するためのハードディスクドライブも購入する予定である。その以外には研究成果を学会に発表するための費用や連携病院への出張、英文論文校閲代、論文印刷代として28年度の研究費を使用する予定である。
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