研究課題
本研究では、上肢の片麻痺を伴う脳卒中患者に対する脳内の病態や様々な治療効果を運動制御の予測とフィードバックの観点からわかりやすく評価できる「脳卒中治療ナビゲーターシステム」の構築を目的とする。そのため、これまで93名の脳卒中患者から手首関節による指標追跡運動を行い、異なる周波数領域から予測制御とフィードバック制御の成分を分離して分析し、「脳卒中治療ナビゲーターシステム」のデータベースとして活用している。特に大脳と視床,大脳基底核の損傷など、脳卒中の各損傷部位に対する病態や回復過程を運動制御の観点から分析できる「脳卒中治療ナビゲーターシステム」の構築を目指している。今年度には、6Hz前後(4-8Hz)の小刻みな階段状運動の定量的評価により、脳卒中の各損傷部位の病態を高精度で評価できることが確認でき、その内容を国際学会(neuro2016)に報告した。また、小脳梗塞患者の回復過程も予測制御とフィードバック制御の観点から追跡した結果、回復と共に予測制御とフィードバック制御の精度が両方とも良くなっていることから、小脳が予測制御だけではなくフィードバック制御にも関係していることが確認でき、この研究内容を論文投稿準備中である。そして、脳卒中患者に対する治療効果や回復過程の評価においては年齢を考慮する必要があり、年代別の運動能力、特にFeedforward制御能力の差を定量的に評価し、その内容をPLosOne論文詩に投稿し、現在major revision中である。さらに、我々の提案した運動制御観点からの評価パラメータが脳卒中の臨床評価指標であるBrunnstrom stageに対してどのような位置関係を示しているかを分析し、その研究内容をBulletin Of Health Sciences Kobe論文詩に発表した。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度には1年目の成果に臨床的な所見や工学的な知識を統合し、収集された臨床データに基づいて各患者の損傷部位や病態に適切な治療法の選択できる「脳卒中治療ナビゲーターシステム」を構築している。特に大脳と視床,大脳基底核,小脳,主に4つの損傷部位に対する病態や回復過程を運動制御観点から分析できる「脳卒中治療ナビゲーターシステム」の構築に必要な症例を集めている。これまで研究の協力病院である順心リハビリテーション病院と原宿リハビリテーション病院、東海大学医学部付属病院の入院患者の協力を得て、36名の脳卒中患者から3ヶ月の間に複数の指標追跡運動を行い、異なる周波数領域から予測制御とフィードバック制御の成分を分離して分析し、各損傷部位に対する病態や回復過程の違いを分析している。特に指標追跡運動における2つの並列制御器(予測制御とフィードバック制御)に基づいた分析は小脳や大脳皮質関連の脳卒中患者の評価には適切であったが、大脳基底核が主に損傷される患者さんにはこの2つの並列制御器だけでは病態の特徴がはっきり抽出できなかったが、さらに3Hz以上の不随意運動領域(振戦領域)をもう一つの制御領域として分析に加え、3次元の運動制御マーカーに基づいて脳卒中患者の損傷部位による回復パターンの違いをより高精度で評価できるようになった。また、単純なストレッチの効果から最新の治療法である反復性経頭蓋磁気刺激(rTMS)療法など、脳卒中患者に対する様々な治療効果を3つの制御要素(予測制御とフィードバック制御、不随意運動領域)に基づいて評価する研究を順心リハビリテーション病院と東海大学医学部付属病院で進めている。特に脳卒中患者に対する治療やリハビリの効果が発症年齢に応じて大分異なる傾向が見えたので、治療や回復過程における年齢の影響を調べる研究も同時に進めている。
今後脳卒中の各損傷部位に対する回復過程や様々なリハビリテーション効果を2つの並列制御器(予測制御器とフィードバック制御器)に基づいて追跡し、収集された臨床データに基づいて各患者の損傷部位や病態に適切な治療法の選択できる「脳卒中治療ナビゲーターシステム」を完成する予定である。特に脳卒中疾患の病態は多様であり、様々な治療に対するデータが十分に収集できずに各患者の病態に適切な治療法を選ぶことができないので、過去の情報に基づいて未来の状態を推定する「カルマンフィルター」を導入し、Viterbi探索法によって選ばれた幾つの治療候補の間を予測させ、少ないデータでも回復予後のシミュレーションができるシステムとして発展させる。また、各損傷部位に対する回復パターンの違いを明確に分析するために、発症年齢や性別、損傷部位の大きさ等の影響を考慮する必要があり、そのための追加データを記録する予定である。特にこれまで手首関節による指標追跡運動を行う際、その際記録した筋電信号と動き情報の異なる周波数領域から予測制御とフィードバック制御の成分を分離して分析してきたが、最近は動き情報だけからこの2つの制御器を評価できる方法が確立できた。特に筋電信号を記録するには、電極の設置や正規化のための実験などが被験者や実験者の両方とも負担になっていたが、これから動きのみの記録にすることにより実験時間が半分になるので、より多くの患者からデータ記録ができると期待される。
2年目である28年度までのデータを分析した結果、各損傷部位に対する回復パターンの違いを明確に分析するには、発症年齢や性別、損傷部位の大きさ等の影響を考慮する必要があり、そのための追加データを記録するための研究遂行期間延長を希望した。そのため、現在一部の研究費が残額として来年度の研究費として残ることになった。
本研究は協力病院である順心リハビリテーション病院と原宿リハビリテーション病院、東海大学医学部付属病院の入院患者の協力を得て行われる連携研究であり、より多くの患者さんから随時記録を連携先の病院スタッフが独自にできるように各病院内の検査室に記録システムを常備する必要がある。そのため、実験用のパソコン1台や大量な患者データを保存するためのハードディスクドライブを購入する予定であり、それ以外には研究成果を学会に発表するための費用や連携病院への出張のための旅費として使用する予定である。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 5件、 招待講演 4件)
Advanced Robotics
巻: 31 ページ: 29-39
10.1080/01691864.2016.1266121
Bulletin Of Health Sciences Kobe
巻: 32 ページ: 45-54
Clinical Neuroscience
巻: 35(1) ページ: 55-59
Cerebellum
巻: 15 ページ: 213-232
10.1007/s12311-015-0664-x.