研究実績の概要 |
1.吃音の有無による脳形態の差異への心理的特性の影響を調べる過程において、吃音のある成人22名(男性16名、女性6名)の吃音の症状と脳形態との関連性を調べた。吃音の症状は、文章の音読および自由会話中に現れた吃音の中核症状(連発、伸発、難発)の割合を文節単位で求めた吃頻度を三名の言語聴覚士の合意により評価した吃頻度[%]を用いた。VBM解析の結果、音読の吃頻度と有意(p<0.001, cluster size corrected)に負の相関がある脳部位として、右小脳が示された。一方、自由会話の吃頻度と有意(p<0.001, cluster size corrected)に正の相関がある脳部位として、右補足運動野と右側頭極近傍が示された。右補足運動野に関しては、peakレベルでも有意(p<0.05, corrected)となった。 吃症状が生じた際に、右大脳半球が過活動する結果が報告されており、過活動により該当部位の体積が増加したと考えると、今回の自由会話での吃頻度の解析結果と一致する。また、音読での吃症状と自由会話での吃症状とでは、脳形態への影響が異なる可能性が示唆される。 2.脳活動と発話運動に関連する筋肉の表面筋電図を同時に計測するシステムの構築し、実際にfMRI実験において発話時と発話イメージ時の脳活動および表面筋電図の同時計測を行った。また、fMRI実験の際に利用した施設の設備を使用し、呼吸と脈波も同時に計測した。被験者は、吃音のある成人(PWS)8名(男性5名、女性3名)とし、比較のため同条件の吃音のない成人1名に対しても計測を行った。 これまで、発話時や発話をイメージした際の脳活動と発話に関する筋肉の表面筋電図を同時に計測した報告はほとんどないため、今回の成果は、吃音に関する神経基盤や病態生理の解明だけでなく、人間が話す際の神経機構の解明にも寄与すると考えられる。
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