本年度は、昨年度取り組んだ、咀嚼時の歯の振動計測のための微小サイズ振動計測センサのさらなる小型化に取り組んだ。昨年度の実験では、前歯にセンサを取り付けて嚥下を行った際に、被験者からセンサが唇の内側に接触するために、自然な咀嚼ができないという意見があった。そのため、本年度はセンサの厚さを薄くすることを目指した。センサの構造は、MEMS技術により作製したピエゾ抵抗効果を利用した長さ200 μm、幅100 μm、厚さ0.3 μmのカンチレバー型の力センサを、液体と空気の界面に配置したものである。歯が振動すると、センサの歯との接触面に振動が伝播し、その振動が液体を介してカンチレバーに伝わる。振動によりカンチレバーの根元部分が歪み、長さが局所的に変化することで、電気抵抗が変化する。センサを構成する部材で最も厚みがあるのは、ピエゾ抵抗シリコンカンチレバーを囲むケーシング部分であり、この部分を薄くすることで全体の厚みを薄くすることとした。具体的には3Dプリンタで製作した部材をさらに強度を保つ範囲で研磨しセンサ全体の厚みを4mm程度まで薄くすることができた。 また、ヒトが咀嚼時に感じる振動に関して、当初計画していた歯が感じる振動に加えて、頭頂部、あごや喉など顔の各部で感じる振動に関しても計測を行った。特に喉に振動計測センサを貼付した際には、喉付近を通過する液体の通過にともなって発生する音の計測が可能であった。嚥下のタイミングと喉を液体が通過するタイミングを同一振動センサで検知することで、嚥下した液体の体内流入速度を見積もることが可能であり、食品テクスチャ以外にも、誤嚥を防ぐ食事法の評価にも応用可能である。
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