音声に対する聴性脳幹反応は音刺激の時間波形に追随した反応を呈するという特徴から,聴覚中枢系である脳幹での音声刺激の符号化について客観的に観察できる可能性があり,補聴器のフィッティングへ応用の可能性が期待されている。しかし,先行研究では聴取成績を記録するために用いられる刺激と聴性脳幹反応を記録するための刺激が異なるため,厳密な対応がとれていないことや,個人について聴取成績の改善を求める補聴器フィッティングを目的とした場合,個人内の聴性脳幹反応についての比較が必要であることが課題として挙げられる。 本年度では,単音節の音声/ba/および/da/に対する雑音下の子音弁別成績と聴性脳幹反応を健聴者10名から記録して,子音弁別の結果と聴性脳幹反応からみた音声符号化の様相との関連性を振幅実効値,周波数分析から検討した。その結果,雑音を付加した音声の弁別成績では,全ての実験参加者においてSN比が低下するに従って正答率は低下し,チャンスレベルに到達すると一定となった。またSN比が高くなるに従って正答率が100 %に到達すると一定となった。音声に対する聴性脳幹反応では,ADD response(音声刺激の極性が(+)と(-)に対する反応を加算した平均波形)の振幅は,雑音の付加により遷移部,定常部ともに減少し,更に遷移部は正答率の低下に従って振幅が減少した。そして,子音弁別成績と子音の遷移部に対する脳幹聴覚路での符号化との間に関連性があることを見出した。これらの結果を踏まえて,難聴者5名の音声増幅による子音弁別成績の変化と音声刺激に対する聴性脳幹反応の比較検討を行ったが,両者の対応を統一する結果は得られなかった。 今後,音声刺激に対する聴性脳幹反応の符号化と,難聴者の個々の聴覚特性との関連性や,実際に補聴器によって聴覚補償した場合の効果との関連性など,更なる研究を重ねていくことが必要である。
|