平成28年度は昨年度構成したBCIシステムの有効性を確認し,Yes/No意思判定への応用を試みた.主たる課題は(1)タスクの選定,(2)脳波(EEG)および近赤外分光(NIRS)信号から抽出した局所脳血行動態・脳波振幅・心拍数変動を意思判定に反映するアルゴリズムの考案,(3)意思判定実験による有効性確認である. (1)については4種の想像タスク(無タスクを含む)を選定した.(2)についてはGranger因果性指標を特徴量として3種類の組み合わせをもとに,サポートベクタマシンによる分類を試みた.(3)については,まず, ALS患者,健常者の局所脳血行動態・脳波振幅・心拍数変動の相互関係が本質的に同じであることを確認した.共通の因果関係は,心拍数→脳血行動態,心拍数→脳波(矢印は影響を与える方向を表わす)というものだった.健常者について局所脳血行動態・心拍数変動を用いた場合(特徴量組み合わせ:心拍数→脳血行動態,脳血行動態→心拍数のGranger因果性)の意思伝達では,最適タスク組み合わせを選ぶことにより94%の分離度が得られた(被験者11名).一方,局所脳血行動態・心拍数変動に脳波振幅変動を加えた場合は,被験者によって最適特徴量組み合わせも最適タスク組み合わせも異なる.最適な条件では,91%の分離度が得られ(被験者6名),揺らぎ成分間の因果関係に基づきYes/Noを判定することが有効であることが分かった. 以上の結果から,本研究課題の目的である「局所脳血行動態,脳波および心拍を同時計測し,それらに基づき患者の意思を効率的に伝える仕組みを提案し,その有効性を検証すること」は,実質的に達成されたと考えられる.
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