研究課題
Unilateral Spatial Neglect(USN,半側空間無視)は,脳卒中をはじめとした大脳の損傷によって病巣側の左右反対側の空間に対する認知的処理が障害された病態であり,脳卒中では右大脳半球の障害後に左側の半側を無視するという症状が見られることが多い.USNは視野の障害とは異なっており,空間的な認知が障害された状態であるため,USNが生じると幅広い生活場面において困難な状況に陥る.臨床においては,無視側への視覚的探索を練習する訓練や,プリズム眼鏡を用いて視野を右に偏倚させる訓練などが用いられているが,いずれの訓練方法も効果の持続や日常生活への汎化について十分な確証は得られていない.これはUSNの責任病巣が複数あることや,脳卒中による障害がUSNだけでなく運動麻痺やその他の高次脳機能障害をはじめとして様々な症状の複合であることなどの理由から患者を対象とした研究に限界があるためである.そこで本研究はラットを用いて脳損傷‐USNモデルを作製することで,統制された条件におけるUSNの評価や薬物投与の効果を検証できるようにすることを目的とした.当該年度では,Free Movingな状態で半側空間無視を評価するための簡便なシステムを完成させた.本システムは,2つの部屋を1つの廊下で繋げた環境においてモデルラットを自由に行動させ,その位置座標と脳損傷による空間無視の様相をビデオモニタリングと接触センサを用いて評価するものである.本年度はSham手術ラットと頭頂葉損傷ラットによる比較を行い,システムのFeasibilityを確認した.